明日の僕らは
その年、おそらく初夏に催された、サッカーフェスティバルが、私たち1年生の…初試合だった。
ルールなんて、まだ知らない。
そんな中での…参加。
Uー8カテゴリーだから、1学年上のコがメインの大会。
集合時間、テントの下に集まった中に…あの、小さい少年もいた。
ひとりさっさととユニフォームに着替え、スパイクを履き…
トントン、とかかとを軽く地面に打つ。
紐など難なく結んで…
コーチが来る前にはもう、テントから出て…準備体操をしていた。
大会の主旨も、規定も、何もかも知らないまま親に連れられて来た私は…
深く疑問に感じることもなく、
さすが4年生だな、と思った。
だって、いつも…3・4年生と一緒に練習してるコだったから。
青々とした人工芝の上。
キックオフと同時に、真っ先にボールに触れたのは…
彼、間宮碧だった。
一方の私は自陣ゴールの近くに立ち、迫って来るボールをはねのけることに徹していた。
碧が運ぶボールに、お団子のようにしてくっついて走る集団にまざると…
全くもって、ボールに触れないからだ。
面白いことに、私がポン、とテキトーに蹴ったボールを拾うのも…碧だ。
8人制サッカーのフィールド選手は7人。
その、7人が作る団子壁を…こじ開けるように突発して、ひとりのサッカー少年は、初戦で5点をマークする活躍を…見せつけた。
試合内容よりも、勝負ごとに勝ったことが…単純に嬉しくて。
大人たちが喜んでくれる顔が…嬉しくて。
みんな、ハイになっていた。
ただひとり、淡々とした表情の碧を…除いて。
すっかりペタんこになった、彼の髪の毛から…ひっきりなしに、汗の雫が滴り落ちていた。
誰かと勝利の喜びを分かち合うことなく、碧は自分の水筒を持ち出し、すぐさま皆のボールの入ったカゴを…無言のまま、運び始めた。
「お~い、誰か手伝え!片付けはみんなでしよう!」
コーチの声に、数名が駆けつけるけれど…
「軽いからいい。」と、追い返されたらしい。
テントに戻ると、彼は真っ先にブルーシートに腰かけて、ソックスをくるぶしまで下げていた。
更にレガース(※すね当て)を取りだし、それをサッカーバックへとしまう。
今にして思えば…幼いながらに、自立心をもった少年だったのだろう。
一連の行動を観察していた私は、彼のそんな姿が…カッコイイ一流の選手にさえ思えて、彼の隣りに腰かけては…ソレを真似てみた。
レガースを外した瞬間。
窮屈だった足元が…一気に解放され、軽くなった気がした。
「すごいね」
と…、つい。
彼の方へと振り返って、話しかけた。
けれど多分。
一方的過ぎて…何の話なのか分からなかったのだろう。
特に返事もなく、ふいっと顔を逸らされて…しまった。