明日の僕らは
◇◇◇
「るい!」
君が…私の名前を呼んでいる。
「るいっ!」
泥が跳ねたストッキング。
雨で泥濘んだ…グラウンド。
白の練習着は見るアテもないくらいに…真っ黒に染まって、それでも、少年は前へ、前へと…駆けて行く。
彼の背中を追うようにして、私は右サイドを疾走しながら…
「……碧っ!!」
足元のサッカーボールを、蹴り出した。
すると…、すいっとマークを外し、トラップすることもなく――…どんピシャリ。彼がボールに合わせて振り抜いた左足は、その真芯を捉えて。
ドン、と小気味良い音を立てた。
それは…ゴールネットを大きく揺する程の、強烈なボレーシュート。
右手を斜め上に真っ直ぐ伸ばして…、その人指し指を突き上げるのは、君・・・間宮碧のお気に入りのゴールパフォーマンスで。
その格好を保ったまま…会心の笑みを浮かべて、仲間達の元へと大きく弧を描くようにして…駆けていた。
――が、
『ピピッ!!』それを遮るようにして…短いホイッスルの音が鳴った。
歓喜に包まれていたチームメイトは、『え?』って顔したまま…、主審の姿を探す。
「碧!喜ぶな、そりゃオフサイドだ!」
コーチの檄が飛んで…、そこでようやく、主審の手が真っ直ぐ高々と挙がっていることに気づく。
「……え。今のギリギリセーフ!」
首を横に振る主審に詰め寄って、文句を垂れる君に…今度はコーチ定番の野次がお見舞いされた。
「碧、判定に口出すな。お前イエロー(カード)!はい、坊主決定~!」
さっきまでの祝福ムードから…一転。私はもちろん、チームメイトは皆一斉にコーチに背を向けて。それから、わざと君から視線を逸らして…自分が巻き込まれぬようにと、内心ひやひやしていた。
ハーフタイムになると、早速君は…コーチに楯突いた。
「さっきのプレーだけど、俺相手背負って、るいがボール蹴るの見た後に前に出たから絶対オフサイドじゃない。それに…逆サイドでツネが上がって来てただろ?るいがもう少しキープしてから、パス出して…俺スルーの、上がってきたツネのクロスで、詰めてた脩人の決定機。それ狙ってたのに、るいが…」
火の粉はこっちに飛び火して。
「何、それ。碧がパス呼んだから出したんじゃん」
私はすかさず、負けじと応戦した。
「そーか、そーか。いいアイディアだけど、イメージが合わんかったか。んじゃー名案!るい、連帯責任でオマエも坊主!」
「えっ…、嘘っ?」
これは、確か――…
私がかつて所属していた、サッカースポーツ少年団の…あるリーグ戦でのひと幕。
小学校4年生。
オフサイドルールが、このカテゴリーから起用される…U-10(※アンダー テン=10歳以下)での戦い。
大雨と、まだ慣れないルールとに翻弄されながら…チームのスタメン8人中男子の輪の中の紅一点だった私は…、根っからの負けずギライの本領を発揮していた…時代。