明日の僕らは
そうだ、ハッキリと…覚えてる。
あの後君が私を、『下手くそ』だの『視野がせまい』だの、余りにも…突っ掛かって来るから、ついつい、頭突きを食らわせて…コーチから強制退場させられたんだっけ。
うちらにしたら、昔のワールドカップで話題になった頭突き事件の動画を真似た…云わばジョークの筈だったけれど…、コーチには伝わらなかったらしい。
いずれにせよ、あんな爽快なシュートがノーゴールになったのだから…、私だって悔しかったし、君はきっと私のそれ以上に…苛立っていたのだろう。
多分…その全てをボールにぶつけてしまったのだと…思う。
君は、後半開始直後のプレーで、相手チームのフォワードの選手がキープしていたボールに背後から突っ込むプレーを行ってしまった。足はちゃんと先にボールへと触れていたのに、足の裏だって見せてもいないのに。運悪く、相手が派手に転んだ。
主審が今度こそ提示したイエローカードを否定するかのように…
コーチの怒鳴り声が響いた。
「碧っ!!オマエそれはレッド(カード)だろっ!交替だ、こうたーいっ!!!」
結局…交替させられた私たち二人は、不毛過ぎることに隣り同士でベンチを温めて…。
往年のライバルチームに、大敗を喫する結果と…なってしまった。
苦い思い出の中でも…ほんの少しだけ。
ちょっぴりくすぐったい気持ちになったのは…その、翌日のことだった。
次の日、練習先の学校で顔を合わせた私たちは、お互いのアタマをみて…つい、固まってしまった。
どんなに生意気な口を利いたって、所詮は10歳のコドモ。
コーチの冗談を、思いきり真に受けて…
君はサラサラふわふわの髪の毛を、ツンツンイガグリ頭に…変身させて。それから私は、腰まであった自慢のロングヘアーをベリーショートにして、
その風貌で対峙したのだから、互いの第一声は…決まりきっていた。
息もピッタリに、
「「誰?」」って。
無責任なことに、大いに笑っていたのは…主悪の根源のコーチで。
ツカツカと私たちに近づいて、自身の胸ポケットを何やら探り始めると――…。
「お前ら、本当仲いいんだか…悪いんだか。」
そう言って、手をポッケにしまいこんだまま、ニヤリと笑って見せた。
「いーか、オフサイドではあったけどなあ、るいの縦のパスも、碧のポジションどりも最高だった。ナイスアシスト、ナイスシュート、そんで…この息の合ったボウズヘアー、ナイスコンビネーション!」
ポケットから這い出したコーチの手が…天高く伸びて。
その、指先に…しっかりと握られた…一枚のカード。
鮮やかなグリーンが、その日のよく晴れた青い空に…とても似合っていた。
「「グリーンカード!!(※)」」
チビッ子サッカー少年が…喜ばないハズもない。
飛び付いた私たちのアタマをグシャグシャに撫でて、コーチは…こう言った。
「サッカーは一人じゃできねーんだよ。仲良くなれとは言わねえ、もっとお互いを尊重しろよ?」
「「『村長』?」」
「…………。お前らが頭脳プレー苦手なのは昨日でよーーーく判った。まあ、いい。このままずっと一緒にプレーしてりゃあいつか理解できるハズ。」
「「………??」」
「碧、お前は特にな~?お前の名前は『アオイ』だけど、その字は『ミドリ』とも読めるんだ。いーか、ミドリ色のこのカードに恥じることないように…しっかりやれよ。」
(※)グリーンカード = U-12(12歳)以下の大会にて、フェアプレー精神の発揮が認められた選手、またはチームに対して審判が示す緑色のカード。