きみと駆けるアイディールワールド―緑風の章、セーブポイントから―
 アタシが岩陰で萌え萌えしてる間にも、誰ともわからない2人の会話は続く。
「乱数どころじゃないわ。プログラムの一部が書き換えられてる。言ってしまえば、このフィールドに穴が空けられている状態よ」
「その穴というのが怪しいな。アイツがどこか別の場所へ行ってしまった可能性は?」
「ええ、その可能性が高いわね。ああもうっ、やっとつかまえられると思ったのに」
「いらだっても仕方ないだろう。アイツはプログラムを書き換える能力を持っている。逆に言えば、書き換わったデータを当たればいいんだ。そこにきっとアイツがいる」
「わかってるわ。絶対に捜し出してみせる」
 どういうことなんだろう? 意識がいるとかいないとか、フィールドの穴とか、プログラムの書き換えとか。もしかして、そこにいる2人って、ピアズの運営さん?
 オンラインRPG『PEERS' STORIES《ピアズ・ストーリーズ》』、通称ピアズ。このゲーム世界はものすごく丁寧に管理されていて、監視役の運営さんも一般ユーザに交じってプレイしてたりする。アタシの以前の仲間《ピア》にも1人、そういう人がいた。
 もしあの人たちが運営さんなら、これって聞かれたくない話なのかな? アタシ、見付からないうちにログアウトしたほうがいい?
 でも、こういうときに限って、鼻がマズい。待って待って待って、あたし、こらえて!
「ふぇっくしゅんっ」
 クシャミ、出ました。
 リップパッチの集音機がクシャミの音を拾った。「あちゃ~」とか言っちゃった声もバッチリ拾った。
 しゃべっていた2人の声が、ピタリと止まった。
「誰かいるの!?」
 女の人の凛とした口調。コントローラを握ったあたしは、ビクッとしてしまう。あたしはおそるおそる、アバターを操作した。
 2つ分けの三つ編みにした赤毛、黒いとんがり帽子とミニスカワンピ、白黒しましまのニーハイ、という典型的な魔女っ子スタイルのアタシが、画面の中で立ち上がる。カメラアイの位置が動いて、視界が開けた。
< 2 / 91 >

この作品をシェア

pagetop