きみと駆けるアイディールワールド―緑風の章、セーブポイントから―
ざぱぁぁぁっ! と派手な演出とともに、川の水面が割れた。黒い鱗の竜が長い体をくねらせて、水から飛び出す。予想どおりだけど、デカっ!
ニコルさんが新たな魔法を発動させる。
“闘士強壮”
“術士聡明”
シャリンさんの物理攻撃力とアタシの魔法攻撃力がアップする。効果がハンパない。ニコルさんの補助魔法、最高ランクだ。
ジャオが吠えた。ずらっと牙の生えた口はなかなかの迫力だけど、ニコルさんは冷静にこき下ろした。
「東洋系の竜は、脚の指の本数で階級が分けられているんだ。いちばん強くて位が高いのは5本指。今ここにいるジャオは3本指だ。竜の中では最下級の雑魚《ざこ》だね。頭が悪いから、魔法は効きやすいよ。さほど苦労する敵じゃない」
バトルのスキルはBPM240。シャリンさんとラフさんが剣を構えた。
「どういう作戦で行こうかしら、ニコル?」
「頭を狙うのが、手っ取り早いだろうね。尻尾のほうはボクが魔法で抑えるよ。そのぶん、補助や回復が手薄になるけど、大丈夫?」
「このワタシがダメージを負うわけないでしょ」
きゃー、そういうセリフ、いつか言ってみたい!
「シャリンさんカッコいい! ニコルさん、アタシは何をすればいいですか?」
「前肢のあたりを狙って。あの鈎爪、ちょっと厄介だ。トルイのAIにも同じ指示を送ってあるよ」
「わかりました!」
3・2・1、Fight!
電光石火の勢いでシャリンさんが飛び出す。凄まじい早業の剣技でジャオの顔面を切り刻む。ラフさんが続く。ジャオの長い首を踏み台にして跳び上がって、眉間に双剣が突き込む。
ニコルさんの手に細長い葉っぱがある。鋭いモーションで投擲された葉っぱは、空中でするすると伸びて尖った。まるで巨大なピンだ。葉っぱがジャオの尻尾を貫く。
“葉針捕刺”
捕縛魔法の1種だ。ジャオは尻尾を空中に留め付けられる。
トルイくんが次々と矢を放つ。ジャオの前肢がハリネズミになっていく。
アタシもスキルを詠唱中。ディスプレイの中の魔女っ子は目を閉じて、魔力の風を立ち上らせている。コントローラを持つ手元はひたすら譜面の矢印をコマンドして、PFCは逃したけど、ほぼ完璧にてスキルが完成。
「よーし、いけっ、“ゴロゴロ石つぶて!”」
石つぶてってネーミングよりは大きな岩がジャオへ飛んでいく。ぼこすこぼこっ、とクリティカルに決まって、トルイくんとのコンボがつながる。てか、予想以上の大ダメージ?
「ルラちゃん、弱点を突くとはお見事!」
ニコルさんに誉められた! でも、たまたまなんです。
ジャオが、カッと口を開けた。と思ったら、ドォッと噴き出す水鉄砲。
「危ないわねっ!」
シャリンさんがかわす。水鉄砲を食らった地面が思いっきりえぐれた。すごい水圧だ。魔法攻撃じゃなくて、物理攻撃。アタシみたいに魔法への傾斜配分がきついタイプが食らったらヤバいやつ。
ジャオがニコルさんのほうを向いた。巨大な口が開く。ちょい待ち、ニコルさんは魔法発動中で動けない!
「間に合え~っ!」
アタシは詠唱中だったスキルを別のに切り替えた。同じ大地系だから、どうにかなるはず!
“ガチガチ障壁!”
ニコルさんの正面に土の壁がせり上がる。ジャオの放った水鉄砲が土の壁にぶつかった。グラッとする土の壁。でも耐えた!
「ありがとう、助かった。やられたぶんは、キッチリやり返さないとね!」
ニコルさんがジャオへの捕縛魔法を重ねた。逃れようとジタバタするジャオだけど、尻尾に刺さった葉っぱのピンが抜けるはずもなく。
――パリッ――
不意に、グラフィックの片隅がひずんだ。
――パリッ、パリッ――
まただ。アタシの気のせいでも端末の問題でもなかったらしくて、シャリンさんが声をあげた。
「ずいぶん負荷がかかってるみたいね」
画面が止まっちゃうほどの乱れじゃない。ジャオがまた攻撃してこようとする。ヒットポイントはまだまだ半分以上ある。
突然、スピーカから、消え入りそうな声が聞こえた。
「助太刀、いたします」
えーっと、名前、何だっけ? トルイくんのおにいさんの、あの地味な人。
「ぉわぁっ! いつの間にアタシの後ろに!?」
「先ほどから……」
「いたの!?」
灰色っぽい毛並みの子。3男坊の、誰だっけ? トルイくんが答えを出してくれた。
「オゴデイにいさん、どうしてここに!?」
そうだった、オゴデイくんだった。おにいさんたちと一緒に先行してたんじゃないっけ?
「連絡係として本軍に来たところです。父上から、トルイたちを助けるように、と命じられました」
「ふぅん、そうなんだ。じゃあ、オゴデイにいさんも手伝って♪」
パーティの人数が増えて、バトルの運びが楽になる。オゴデイくんの武器や戦法は、トルイくんと一緒で、弓矢だ。コンボが決まりやすくなって、ジャオのヒットポイントの減りが速い。前衛ではシャリンさんとラフさんが無双してて気持ちいいし。
やっぱ、強い人たちと組むと楽しい。というか、爽快すぎてヤバい。テンションが上がる!
ニコルさんが新たな魔法を発動させる。
“闘士強壮”
“術士聡明”
シャリンさんの物理攻撃力とアタシの魔法攻撃力がアップする。効果がハンパない。ニコルさんの補助魔法、最高ランクだ。
ジャオが吠えた。ずらっと牙の生えた口はなかなかの迫力だけど、ニコルさんは冷静にこき下ろした。
「東洋系の竜は、脚の指の本数で階級が分けられているんだ。いちばん強くて位が高いのは5本指。今ここにいるジャオは3本指だ。竜の中では最下級の雑魚《ざこ》だね。頭が悪いから、魔法は効きやすいよ。さほど苦労する敵じゃない」
バトルのスキルはBPM240。シャリンさんとラフさんが剣を構えた。
「どういう作戦で行こうかしら、ニコル?」
「頭を狙うのが、手っ取り早いだろうね。尻尾のほうはボクが魔法で抑えるよ。そのぶん、補助や回復が手薄になるけど、大丈夫?」
「このワタシがダメージを負うわけないでしょ」
きゃー、そういうセリフ、いつか言ってみたい!
「シャリンさんカッコいい! ニコルさん、アタシは何をすればいいですか?」
「前肢のあたりを狙って。あの鈎爪、ちょっと厄介だ。トルイのAIにも同じ指示を送ってあるよ」
「わかりました!」
3・2・1、Fight!
電光石火の勢いでシャリンさんが飛び出す。凄まじい早業の剣技でジャオの顔面を切り刻む。ラフさんが続く。ジャオの長い首を踏み台にして跳び上がって、眉間に双剣が突き込む。
ニコルさんの手に細長い葉っぱがある。鋭いモーションで投擲された葉っぱは、空中でするすると伸びて尖った。まるで巨大なピンだ。葉っぱがジャオの尻尾を貫く。
“葉針捕刺”
捕縛魔法の1種だ。ジャオは尻尾を空中に留め付けられる。
トルイくんが次々と矢を放つ。ジャオの前肢がハリネズミになっていく。
アタシもスキルを詠唱中。ディスプレイの中の魔女っ子は目を閉じて、魔力の風を立ち上らせている。コントローラを持つ手元はひたすら譜面の矢印をコマンドして、PFCは逃したけど、ほぼ完璧にてスキルが完成。
「よーし、いけっ、“ゴロゴロ石つぶて!”」
石つぶてってネーミングよりは大きな岩がジャオへ飛んでいく。ぼこすこぼこっ、とクリティカルに決まって、トルイくんとのコンボがつながる。てか、予想以上の大ダメージ?
「ルラちゃん、弱点を突くとはお見事!」
ニコルさんに誉められた! でも、たまたまなんです。
ジャオが、カッと口を開けた。と思ったら、ドォッと噴き出す水鉄砲。
「危ないわねっ!」
シャリンさんがかわす。水鉄砲を食らった地面が思いっきりえぐれた。すごい水圧だ。魔法攻撃じゃなくて、物理攻撃。アタシみたいに魔法への傾斜配分がきついタイプが食らったらヤバいやつ。
ジャオがニコルさんのほうを向いた。巨大な口が開く。ちょい待ち、ニコルさんは魔法発動中で動けない!
「間に合え~っ!」
アタシは詠唱中だったスキルを別のに切り替えた。同じ大地系だから、どうにかなるはず!
“ガチガチ障壁!”
ニコルさんの正面に土の壁がせり上がる。ジャオの放った水鉄砲が土の壁にぶつかった。グラッとする土の壁。でも耐えた!
「ありがとう、助かった。やられたぶんは、キッチリやり返さないとね!」
ニコルさんがジャオへの捕縛魔法を重ねた。逃れようとジタバタするジャオだけど、尻尾に刺さった葉っぱのピンが抜けるはずもなく。
――パリッ――
不意に、グラフィックの片隅がひずんだ。
――パリッ、パリッ――
まただ。アタシの気のせいでも端末の問題でもなかったらしくて、シャリンさんが声をあげた。
「ずいぶん負荷がかかってるみたいね」
画面が止まっちゃうほどの乱れじゃない。ジャオがまた攻撃してこようとする。ヒットポイントはまだまだ半分以上ある。
突然、スピーカから、消え入りそうな声が聞こえた。
「助太刀、いたします」
えーっと、名前、何だっけ? トルイくんのおにいさんの、あの地味な人。
「ぉわぁっ! いつの間にアタシの後ろに!?」
「先ほどから……」
「いたの!?」
灰色っぽい毛並みの子。3男坊の、誰だっけ? トルイくんが答えを出してくれた。
「オゴデイにいさん、どうしてここに!?」
そうだった、オゴデイくんだった。おにいさんたちと一緒に先行してたんじゃないっけ?
「連絡係として本軍に来たところです。父上から、トルイたちを助けるように、と命じられました」
「ふぅん、そうなんだ。じゃあ、オゴデイにいさんも手伝って♪」
パーティの人数が増えて、バトルの運びが楽になる。オゴデイくんの武器や戦法は、トルイくんと一緒で、弓矢だ。コンボが決まりやすくなって、ジャオのヒットポイントの減りが速い。前衛ではシャリンさんとラフさんが無双してて気持ちいいし。
やっぱ、強い人たちと組むと楽しい。というか、爽快すぎてヤバい。テンションが上がる!