きみと駆けるアイディールワールド―緑風の章、セーブポイントから―
 突然、ぼゎ……ん、という効果音が聞こえた。ワープするときの空間が歪む音だ。
 チャガタイさんがアタシたちの背後をにらんで指差して、青い毛を逆立てて身構えた。
「キサマ、いつの間に!」
 アタシは、思わずコントローラを握り直しながら振り返った。そこに立っていたのは。
「おーっ、イケメン!」
 しまった、言っちゃった。ニコルさんとシャリンさんが同時に噴き出した。お願い、スルーして。
 改めまして。
 そこに立っていたのは、アラビアンナイトな格好のイケメンだった。悪人スマイルがやたらとキマってる。パラメータボックスに生体反応が出ない。ってことは、このイケメン、ホログラムだ。
 ホログラムのイケメンが名乗った。
「我が名はジャラール。ホラズム国の王子だ。薄汚い犬コロどもが国境を侵したと聞いて来てみれば、ふん、想像以上にみすぼらしい軍営だな」
 ニコルさんが感心したようにつぶやいた。
「ここまで嫌味ったらしいキャラもなかなか珍しいね」
「ですね。でも、ニコルさんの予想、ドンピシャでしたね!」
 ジャラールはターバンの宝石に触れた。全身、アクセだらけだ。金とか宝石とかの、ごっついやつ。イケメン王子の趣味は、あんまりよろしくないっぽい。
「犬コロどもは足が速い。本来ならば、この広大な我が国のどこにおるやら、つかまえることができぬが、こたびはたやすかった。青犬よ、オヌシの兄は愚直だな」
 チャガタイさんがうなった。
「ウルゲンチの交渉を長引かせたのは、キサマの策略か!? オレたちの居場所を確実につかむためだったんだな!」
 ジャラールは、くくくくくっと悪人ちっくな笑い方をした。
「ウルゲンチのような田舎の町など、ほしければくれてやる。ただし、我が魔術のシモベを倒すことができればな! いでよ、魔人シャイターン!」
 わかりやす~いことに、ジャラールが掲げた黄金のランプから怪しい光がこぼれ始めた。と同時にバトルモードが発動する。
 チャガタイさんが空に向かって吠えた。
 アォォォオオンッ!
 慌て始めてたモブの兵士たちが、ピシッと気を付けをする。チャガタイさんは兵士たちに怒鳴った。
「退避せよッ! 魔人のチカラの及ばない場所まで、全軍退避ッ!」
 ランプから現れたのは、まさしくランプの魔人だった。ムキムキの大男で、上半身は裸。ダボッとしたズボンに反り返った靴ってファッションで、とにかくデカくて赤い。
 ニコルさんが魔人に杖を向けた。緑の珠がきらめいて、魔力の風が魔人を包む。
 “賢者索敵”
「魔人シャイターンか。物理攻撃が効かないね。シャリンとラフの剣に魔力を宿しておかなきゃいけない」
 シャイターンがマッチョなポーズをとった。そのそばで、ジャラールがアタシたちを指差した。
「ゆけ、シャイターン! ヤツらを木っ端微塵にせよ!」
 そして消える、ジャラールのホログラム。
「すっごくわかりやすい悪役キャラですね~」
 呆れるっていうか、むしろ感動しちゃうよ。今どき、こんな20世紀的な敵さんに出会えるとは。ニコルさんもちょっと笑って、でも、すぐに凛々しい声になった。
「ルラちゃん、少しの間、シャイターンを防いで。ボクはシャリンとラフの武器に魔法をかけるから」
「わっかりましたー!」
 さーて、詠唱開始。でも、こっちが整わないうちに、問答無用でシャイターンがつかみかかってくる。
「させるかぁッ!」
 暑苦しい叫びとともに、チャガタイさんが矢を連射した。右手にヒット判定を受けまくったシャイターンが動きを止める。
「チャガタイさん、ナイス!」
「ルラのためなら、この身を火に焼かれようとも熱くないぞ!」
「アナタがいちばん熱いっす」
「気を付けろ、また来るぞ!」
 チャガタイさんが弓を構えて矢を放つ。
「アタシも負けてらんないし!」
 山ほどの飛び道具を一気にぶっ飛ばすスキル、詠唱完了。基本的な命中率は低いんだけど、今回は的がデカいから全部ヒットするはず!
 “ピコピコはんまーっ!”
 全然ピコピコしそうに見えない真っ赤なトンカチの群れが、シャイターン目がけてわらわらと飛んでいく。ヒット判定と同時にピヨピヨするのはお約束。
「もっかい食らえー!」
 ピコピコ、ピヨピヨ。全然美しくないマッチョ魔人が相手だから、気持ちよくボコれる。
 ちょうどそのとき、ニコルさんの魔法が完成した。
 “魔蔦絡剣”
 シャリンさんとラフさんの剣が緑色に輝いた。ツタが絡みつく模様が浮かび上がってる。
 魔力を帯びた剣を手に、すかさず飛び出していくシャリンさん。ラフさんが続く。シャイターンの巨体に剣を叩きつけては、その反動でさらに跳び上がる。あっという間に、シャリンさんとラフさんはシャイターンの頭上にいる。そして、落下の勢いを乗せた必殺剣。
 “Bloody Minerva”
 “chill out”
 2人のコンボが決まる。痛快!
「ルラちゃん、ボクたちも続くよ!」
「はい!」
 ニコルさんの足下から魔力の風が立ち上る。ふわりとなびく緑色のローブと、銀色の髪。
「そうだ。今度、ボクにも“ピコピコはんまーっ!”を教えてよ。あのスキル、覚えたいな」
「ニコルさんが“ピコピコはんまーっ!”やるんですか!?」
 か、かわいすぎる……!
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