きみと駆けるアイディールワールド―緑風の章、セーブポイントから―
 アタシが真っ先に逃げ出したと思う。
 ふっ、と。
 ディスプレイに平穏が戻った。ピアズのスタート画面。
「どうして、あんなことに……?」
 コントローラを握りしめてた手は汗びっしょりだった。
 ぴろ~ん♪ と、間の抜けた効果音が鳴った。ピアズを介したメッセージの受信音だ。
 あたしは、ポップアップされた便箋マークをタップした。メッセージはシャリンさんからだった。
〈みんな、無事? 読みを外してたわ。ジョチは、ラフじゃなかった。思い出してみれば当然ね。最初のボス、ジャオと戦ったとき、ジョチはいなかった〉
 あたしは急いで返信した。
〈ルラは大丈夫っぽいです! でも、ジョチさんじゃなかったって、どういうことですか?〉
 ニコルさんの返信と、ほとんど同じタイミングだった。
〈ニコルのデータも問題ない。「ジョチの帳幕《ゲル》」っていうフィールド名にミスリードされたんだ。実際のところ、オゴデイのほうだったわけだ〉
 え? オゴデイくん?
 少し間があった。シャリンさんが何か発言しようとしてるのがわかって、あたしは待った。すぐにシャリンさんからメッセージが届いた。
〈ジョチのAIプログラムを解析するために容量を割いていたの。そのぶん、同フィールド内のその他のデータは相対的に容量が下がって、ラフは無防備な状態になっていた〉
 一旦、メッセージが途切れる。リアクションするより早く、続きが飛んできた。
〈守りの薄くなったラフのそばにオゴデイがいた。オゴデイに憑依しているラフの魂は肉体と引き合って、プログラムを掻き乱した。あのままだったら、フィールドを破壊していた〉
 ニコルさんからの返信が来た。
〈シャリン、了解。今、チラッとログインしてきた。セーブデータも無事だったよ。イフリートを倒した状態に保存されてた。次はジョチのゲルから再スタートだ〉
 アタシは確認のメッセージを送った。
〈じゃあ、次はオゴデイくんをつかまえればいいんですね? 今回みたいに、シャリンさんが直接オゴデイくんに触れる感じで?〉
〈そうね。協力してちょうだい。解析プログラムを修復しておくわ〉
〈まあ、オゴデイが最大のキーマンというのは、史実を鑑みれば納得だ〉
〈どういう意味ですか?〉
〈たぶん、次回のストーリーで説明されるよ〉
〈何にしても、今度は絶対に失敗しないわ〉
 アタシたちは明日の待ち合わせの時刻を決めた。それから、おやすみなさいを言い合って、メッセージの画面を閉じた。
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