きみと駆けるアイディールワールド―緑風の章、セーブポイントから―
初生は、長いまつげをぱちぱちさせると、息をつくように淡く微笑んだ。
「えみちゃんはハッキリしてて、いいなぁ」
「ハッキリしてるって? 好きなタイプのこと?」
背が高くて優しくて声がステキなおにいさん系イケメンが、あたしの好きなタイプ。それを見抜いて分析したのは、初生だったりする。好きなアニメキャラの傾向もこんなんだし、風坂先生もバッチリ当てはまる。
「好きなタイプもそうだけど、いろいろ。えみちゃんはハッキリしてて元気で、いいなって思う」
「あたしは初生のかわいらしさがうらやましいよ?」
「かわいくなんて……」
「ほらほら、謙遜しない!」
「け、謙遜じゃないよ」
「あたしが男だったら、初生のこと、ほっとかないけど」
「えみちゃんってば……」
来水高校前ってバス停は名前詐欺だ。バス停は高校の前じゃなくて、裏手にある。裏門がないんだよね、うちの高校。バス停から正門まで、ぐるっと歩かなきゃいけない。その徒歩タイムが、あたしと初生のおしゃべりタイムになるわけ。
正門到着の直前だった。並木道の大きなイチョウの木の下に、見知った人影がある。
「あ、瞬一《しゅんいち》だ」
同い年のいとこの、甲斐瞬一。初生がビクッと足を止めた。もしかして初生、瞬一のこと怖がってる? 仕方ないかな。瞬一って愛想ないから。
瞬一に声を掛けようかと思った。でも、瞬一が1人じゃないのに気付いて、あたしも立ち止まる。
木の陰に隠れて、話をしてたんだ。瞬一と、誰か知らないけどうちの高校の女の子。
瞬一を見上げた女の子の笑顔が、くしゃりと泣き顔になる。頭を下げて、そのまま顔を伏せて駆け出す。取り残された瞬一が肩で息をする。
何が起こったのか、なんとなくわかっちゃった。瞬一、告白されてたんだ。で、断って相手を泣かせた。
あたしと瞬一はいとこ同士なんだけど、全然似てない。
瞬一は頭がいい。理系特進クラスでトップの成績だ。顔もいい。両親の顔のイイトコ取りをした。声は普通。性格は、どっちかというと悪い。いや、性格そのものが悪いんじゃなくて、付き合いが悪くて愛想が悪い。一本気すぎて、まわりが目に入らないタイプ。
でも、瞬一はモテる。愛想の悪さも「クール」ってことになってる。
瞬一の整った横顔が朝日に照らされている。昔はもっと、ほっぺたが丸かったんだけどな。あのころの瞬一、ほんっとにかわいかった。
あたしは、抑えていた声を解放した。
「こらー、瞬一! また女の子を泣かせて!」
「え、笑音」
瞬一が振り返った。わーぉ、怖い顔。初生があたしの後ろに隠れた。あたしは笑って言った。
「朝っぱらから、にらまないの! 眉間のしわ、どーにかしなさいよ」
「うるさい。学校では話しかけるなって言ってるだろ」
いつの間にか低くなってた瞬一の声は、亡くなった叔父さんの声にそっくりだ。
「まだ学校に到着してないよー?」
「話しかけるなってば」
「テンション低いなー、もう」
「笑音はうるさすぎる。馴れ馴れしくするなって」
捨てゼリフを残して、瞬一は走っていってしまった。あたしは笑っちゃいながら、初生に謝った。
「あいつが無愛想で、ごめんね」
初生は下を向いて、ぶんぶんと首を左右に振った。人見知りをする初生にとって、瞬一は苦手なタイプだろうね。瞬一の将来の目標はお医者さんなのに、今のまんまじゃ威圧感ありすぎ。困ったやつだ。もっと優しい顔ができるようにならなきゃマズい。
瞬一はちょっと難しいところがある。小学4年生のとき、両親を交通事故で亡くした。それ以来、我が家の養子として、うちに住んでる。最初は、ほんとにしゃべってくれなかった。おびえてた。いつから変わったんだっけ?
今では、瞬一は強くなった。目標を持って勉強に打ち込んでる。まあ、だから告白も断っちゃうんだよね。自分の目標を誰にも邪魔されたくないんだって。
ガンガンに頑張りすぎな瞬一は痛々しい。笑顔を分け合える相手がいればいいのにって、あたしは思うんだけど。
だって、あたしは風坂先生としゃべってると嬉しい。幸せだし、やる気が出てくる。あたしも風坂先生みたいに、人の役に立つ仕事をしたい。
ニコルさんの件もそうだ。抱えた事情が何なのか知らないけど、お手伝いできること、何でもしてあげたい。あの笑顔を見つめてたら、頑張ろうって気持ちになれる。
「これが恋だよね~。恋のパワーって無限だよね~」
思わずにまにますると、小柄な初生があたしを見上げて、ため息を1つ。
「わたしも『これが恋』って、堂々と言えたらいいのに」
「えっ? 初生、好きな人いるの?」
初生は、みるみるうちに、かぁっと赤くなった。色白だから、耳も首筋も赤い。
「い、いる、よ」
「誰っ!?」
「今は、言えない」
「あたしの知ってる人?」
こっくりとうなずく初生。
「で、でも、風坂先生ではないから」
「よかったぁ」
初生がライバルじゃ、絶対、勝ち目ないもん。初生はかわいすぎるから。あたしが初生のこと嫁にしたいわ。
「えみちゃんはハッキリしてて、いいなぁ」
「ハッキリしてるって? 好きなタイプのこと?」
背が高くて優しくて声がステキなおにいさん系イケメンが、あたしの好きなタイプ。それを見抜いて分析したのは、初生だったりする。好きなアニメキャラの傾向もこんなんだし、風坂先生もバッチリ当てはまる。
「好きなタイプもそうだけど、いろいろ。えみちゃんはハッキリしてて元気で、いいなって思う」
「あたしは初生のかわいらしさがうらやましいよ?」
「かわいくなんて……」
「ほらほら、謙遜しない!」
「け、謙遜じゃないよ」
「あたしが男だったら、初生のこと、ほっとかないけど」
「えみちゃんってば……」
来水高校前ってバス停は名前詐欺だ。バス停は高校の前じゃなくて、裏手にある。裏門がないんだよね、うちの高校。バス停から正門まで、ぐるっと歩かなきゃいけない。その徒歩タイムが、あたしと初生のおしゃべりタイムになるわけ。
正門到着の直前だった。並木道の大きなイチョウの木の下に、見知った人影がある。
「あ、瞬一《しゅんいち》だ」
同い年のいとこの、甲斐瞬一。初生がビクッと足を止めた。もしかして初生、瞬一のこと怖がってる? 仕方ないかな。瞬一って愛想ないから。
瞬一に声を掛けようかと思った。でも、瞬一が1人じゃないのに気付いて、あたしも立ち止まる。
木の陰に隠れて、話をしてたんだ。瞬一と、誰か知らないけどうちの高校の女の子。
瞬一を見上げた女の子の笑顔が、くしゃりと泣き顔になる。頭を下げて、そのまま顔を伏せて駆け出す。取り残された瞬一が肩で息をする。
何が起こったのか、なんとなくわかっちゃった。瞬一、告白されてたんだ。で、断って相手を泣かせた。
あたしと瞬一はいとこ同士なんだけど、全然似てない。
瞬一は頭がいい。理系特進クラスでトップの成績だ。顔もいい。両親の顔のイイトコ取りをした。声は普通。性格は、どっちかというと悪い。いや、性格そのものが悪いんじゃなくて、付き合いが悪くて愛想が悪い。一本気すぎて、まわりが目に入らないタイプ。
でも、瞬一はモテる。愛想の悪さも「クール」ってことになってる。
瞬一の整った横顔が朝日に照らされている。昔はもっと、ほっぺたが丸かったんだけどな。あのころの瞬一、ほんっとにかわいかった。
あたしは、抑えていた声を解放した。
「こらー、瞬一! また女の子を泣かせて!」
「え、笑音」
瞬一が振り返った。わーぉ、怖い顔。初生があたしの後ろに隠れた。あたしは笑って言った。
「朝っぱらから、にらまないの! 眉間のしわ、どーにかしなさいよ」
「うるさい。学校では話しかけるなって言ってるだろ」
いつの間にか低くなってた瞬一の声は、亡くなった叔父さんの声にそっくりだ。
「まだ学校に到着してないよー?」
「話しかけるなってば」
「テンション低いなー、もう」
「笑音はうるさすぎる。馴れ馴れしくするなって」
捨てゼリフを残して、瞬一は走っていってしまった。あたしは笑っちゃいながら、初生に謝った。
「あいつが無愛想で、ごめんね」
初生は下を向いて、ぶんぶんと首を左右に振った。人見知りをする初生にとって、瞬一は苦手なタイプだろうね。瞬一の将来の目標はお医者さんなのに、今のまんまじゃ威圧感ありすぎ。困ったやつだ。もっと優しい顔ができるようにならなきゃマズい。
瞬一はちょっと難しいところがある。小学4年生のとき、両親を交通事故で亡くした。それ以来、我が家の養子として、うちに住んでる。最初は、ほんとにしゃべってくれなかった。おびえてた。いつから変わったんだっけ?
今では、瞬一は強くなった。目標を持って勉強に打ち込んでる。まあ、だから告白も断っちゃうんだよね。自分の目標を誰にも邪魔されたくないんだって。
ガンガンに頑張りすぎな瞬一は痛々しい。笑顔を分け合える相手がいればいいのにって、あたしは思うんだけど。
だって、あたしは風坂先生としゃべってると嬉しい。幸せだし、やる気が出てくる。あたしも風坂先生みたいに、人の役に立つ仕事をしたい。
ニコルさんの件もそうだ。抱えた事情が何なのか知らないけど、お手伝いできること、何でもしてあげたい。あの笑顔を見つめてたら、頑張ろうって気持ちになれる。
「これが恋だよね~。恋のパワーって無限だよね~」
思わずにまにますると、小柄な初生があたしを見上げて、ため息を1つ。
「わたしも『これが恋』って、堂々と言えたらいいのに」
「えっ? 初生、好きな人いるの?」
初生は、みるみるうちに、かぁっと赤くなった。色白だから、耳も首筋も赤い。
「い、いる、よ」
「誰っ!?」
「今は、言えない」
「あたしの知ってる人?」
こっくりとうなずく初生。
「で、でも、風坂先生ではないから」
「よかったぁ」
初生がライバルじゃ、絶対、勝ち目ないもん。初生はかわいすぎるから。あたしが初生のこと嫁にしたいわ。