きみと駆けるアイディールワールド―緑風の章、セーブポイントから―
第10章:ルラ-Lula-

○やっぱ邪魔が入る?

 川のほとりから、ストーリー再開だった。アタシの黒いとんがり帽子には、白い花が飾られてる。オゴデイくんが、そっと挿してくれた花。
 そのオゴデイくんは今、戸惑った目をして立ち尽くしてる。アタシを抱きしめてるところをニコルさんたちに見付かった場面だ。ニコルさんが杖を構えた。
「魔法で束縛しておこうか?」
 シャリンさんが何か答えかけた。その声を、けたたましいアラームが掻き消した。バトルの到来を告げるアラームだ。
「ああぁぁ、タイミング悪いー」
 アタシの嘆き節に、シャリンさんの舌打ちが重なった。
「毎回毎回、ワタシをからかうようなタイミングね。オゴデイの地味キャラでもミスリードしてくれたし、何なのよ、もうっ。わざとじゃないの、朝綺?」
「わざと?」
「ゲームとして楽しみたいからこういうタイミングを演出してる、って気がしてならないのよ、毎回」
「えーっと」
「もしそうなら、後でぶっ飛ばすわ」
「ぶ、ぶっ飛ばすって、えぇっ!?」
 シャリンさん、じゃなくて麗さん、お手柔らかに! 朝綺さん、目覚めたとしても、力いっぱい病み上がりなんで!
 川の上空の何もない空間に、いくつもの稲妻が走った。ジグザグの光は1点に集まって、形を現していく。
 見え始めるシルエットは、スラッとした男だ。頭には宝石付きのターバン。足元はだぶだぶのズボンと、つま先が反り返った靴。
 あー、何だったっけ、名前? 悪人スマイルのアラブ系王子さま。ジェラート的な響きだったような。でも、ジェラートじゃアイスの一種だし。
 オゴデイくんが、背負っていた弓矢を素早く構えた。
「ジャラール、なぜここへ!?」
「あ、それだ、ジャラールだ!」
「ルラさん、気を付けてください!」
「おっけー」
 ジャラールが憎々しげにオゴデイくんをにらんだ。余裕なさげに、肩で大きな息をしている。
「オヌシが蒼狼族の次の王に選ばれたそうだな。ふん、影の薄い三男坊が、運のいいことよ」
「どこで、それを知ったのですか?」
「ホラズム国で最も優秀な魔術師であるオレの力をなめるなよ。オヌシらがどこにいようと、オレの目と耳から逃れられぬ」
 と言いつつ、ジャラールは全力で息が上がっちゃってる。魔力の使いすぎはスタミナ削るんだよねー。なのに、ホログラムで宣戦布告しに来た感じ?
 マメだなー。悪役ながらアッパレっていうか。まあ、それくらいしてくれなきゃ、存在感なすぎるけど。ジョチさんエピソードでは出てこなくて、名前忘れてたし。
 肩で息しながらも悪人スマイルのジャラールを眺めつつ、アタシは当然ながら、ボーッとしてたわけじゃない。オゴデイくんを捕獲しようと、コントローラをいじりまくってた。だけどダメだ。動けない。バトルに入るまでは、ストーリーを追わざるを得ないみたい。
 ジャラールが黄金のランプを取り出した。2度あることは3度あるって言うけど、ワンパターンな人だ。
「またランプの魔人じゃん」
 ムキムキの巨人が、盛大な効果音とともにランプから飛び出す。マッチョ系って、あんまり得意じゃないんだよね。筋肉ダルマを連続で出されると、絵的に胃もたれする。これのシナリオ書いた作者、ちょっと出てきてよ。手抜きじゃないのー?
 ニコルさんが魔力の風を立ち上らせた。バトルモードに切り替わって、コマンドが入るようになったらしい。ニコルさんは杖を掲げて、凛々しい声をあげた。
「オゴデイを確保したいところだけど、難しいかな。さっさとあの魔人を片付けようか!」
 “賢者索敵”
 ニコルさんの魔法が発動する。パラメータボックスに、魔人の情報が飛び込んでくる。
「マーリドって名前ですか。物理無効は仕方ないとしても、魔法耐性まであるって、やだーっ!」
 アタシの悲鳴に、オゴデイくんがバサッと尻尾を振った。
「手強い敵です。気を抜かないで」
 オゴデイくんがしゃべると、ふぃん、と音がする。データの乱れを計測するゲージが揺れて、一瞬、レッドに近付いた。正直、不気味だ。プログラムの破損に巻き込まれたらと想像すると、怖い。
 でもまあ、怖がっててもしょうがないよね。
< 76 / 91 >

この作品をシェア

pagetop