きみと駆けるアイディールワールド―緑風の章、セーブポイントから―
「のわっ!? オゴデイくん、そっちマズい!」
アタシが叫んだけど、もう遅い。オゴデイくんは大きな岩のほうへ追い詰められる。
ニコルさんが杖を掲げながら走った。杖の先端の珠が緑色に輝く。ぶん、と一振り。緑色の輝きがビュンと伸びて、光のムチになる。
“魔茨鞭撃”
ムチがマーリドの右手を打った。ヒット判定が出て動きが止まる。
ニコルさんが杖を振るって、ムチをひるがえした。長い銀髪がきらめく。するすると伸びたムチがマーリドの右腕を絡め取る。
「つかまえたよ!」
うぁー、ニコルさん、なんでムチとか似合うのー!? とかニヤけながら、アタシもちゃんと走ってる。オゴデイくんを背中にかばって、魔法を発動する。
“ガチガチ障壁!”
魔法の杖で一突きした地面が、壁になってせり上がる。ずごごごっ、という効果音とともにふさがる視界。
ずがんっ!
壁の向こう側にマーリドが左のゲンコツをぶつけた。ふふん。悪いけど、この魔法は最高ランクまで強化してあるんだよね。ランプの魔人がいくら怪力でも、そうそう簡単には。
ずが、がんっ! どんっ! ごつん、どがっ!
みしみし。
「え? みしみし?」
壁のカケラがぱらぱらと落ちてくる。さすがピアズ、演出が細かい。この壁、ヤバいってわけですか?
ずがんっ!
壁にヒビが入った。これは完璧にヤバい。
「オゴデイくん、逃げて!」
アタシが叫ぶのと壁が崩れるのが同時だった。土のかたまりがバラバラと豪快に吹っ飛ぶ。うそーっ、このスキル、最高まで上げるの苦労したのに!
てか、ヤバい! 巨大ゲンコツが!
「ボーッとしてんじゃないわよ!」
真横からヒット判定があった。シャリンさんだ。アタシとオゴデイくんは、まとめて突き飛ばされた。
シャリンさんはゲンコツを踏み台にして跳び上がる。上空で宙返り。落下の勢いで、強烈な突き技が炸裂する。
“Bloody Minerva”
シャリンさんの剣技は一撃では止まらない。剣が三日月型の軌跡を描く。
“Angry Diana”
さらに、いちばん得意な七連撃。
“Wild Iris”
「すごい、1人でコンボ決めてる」
唖然、呆然。さすがはピアズ史上最強クラスの戦士。
そのとき、ニコルさんが悲鳴をあげた。
「うわっ! ごめん、ルラちゃん、よけて!」
「はい?」
ニコルさんのムチを振り切ったマーリドの右腕が、アタシの頭上にあった。空がさえぎられている。影が落ちて視界が暗い。5本の指を大きく開いた手のひら。
え? これ、ヤバくない?
思考が止まった。回避? 魔法? とりあえず移動? どうしよう? 手のひらが迫ってくる。
目を閉じてしまった。だから、決定的瞬間を見なかった。
コントローラが震動する。ヒット判定。でも、大ダメージじゃないのはどうして?
目を開ける。アタシは地面に転がってる。アタシはカメラを頭上に向ける。マーリドの右手がこぶしをつくってる。こぶしは何かを握っている。灰色の、何か。
「オゴデイくん!?」
マーリドの手のひらに握られて、オゴデイくんは、かろうじて頭だけが出ている。青い目がアタシに微笑んだ。
「ルラさんが無事でよかった」
「アタシをかばったの?」
「はい」
「バ、バカだよ!」
マーリドの巨大な顔が、ニィッと笑った。
「灰色の犬コロを、とらえた。なぶり殺しにしてくれよう。ゆっくりと、握りつぶしてくれよう」
ニコルさんとシャリンさんが同時に叫ぶ。
「やめろ!」
「朝綺っ!」
アタシはラフさんを見た。バトルフィールドの外で立ったまま、ガクガク震えてる。壊れた人形みたい。焦点の合わない目をした不気味な姿で。
オゴデイくんのスタミナがじわじわ減り始める。
「アタシがボーッとしてたせいで……」
オゴデイくんと、オゴデイくんに憑いた朝綺さんの魂が、ピアズから消えてしまう。
アタシが叫んだけど、もう遅い。オゴデイくんは大きな岩のほうへ追い詰められる。
ニコルさんが杖を掲げながら走った。杖の先端の珠が緑色に輝く。ぶん、と一振り。緑色の輝きがビュンと伸びて、光のムチになる。
“魔茨鞭撃”
ムチがマーリドの右手を打った。ヒット判定が出て動きが止まる。
ニコルさんが杖を振るって、ムチをひるがえした。長い銀髪がきらめく。するすると伸びたムチがマーリドの右腕を絡め取る。
「つかまえたよ!」
うぁー、ニコルさん、なんでムチとか似合うのー!? とかニヤけながら、アタシもちゃんと走ってる。オゴデイくんを背中にかばって、魔法を発動する。
“ガチガチ障壁!”
魔法の杖で一突きした地面が、壁になってせり上がる。ずごごごっ、という効果音とともにふさがる視界。
ずがんっ!
壁の向こう側にマーリドが左のゲンコツをぶつけた。ふふん。悪いけど、この魔法は最高ランクまで強化してあるんだよね。ランプの魔人がいくら怪力でも、そうそう簡単には。
ずが、がんっ! どんっ! ごつん、どがっ!
みしみし。
「え? みしみし?」
壁のカケラがぱらぱらと落ちてくる。さすがピアズ、演出が細かい。この壁、ヤバいってわけですか?
ずがんっ!
壁にヒビが入った。これは完璧にヤバい。
「オゴデイくん、逃げて!」
アタシが叫ぶのと壁が崩れるのが同時だった。土のかたまりがバラバラと豪快に吹っ飛ぶ。うそーっ、このスキル、最高まで上げるの苦労したのに!
てか、ヤバい! 巨大ゲンコツが!
「ボーッとしてんじゃないわよ!」
真横からヒット判定があった。シャリンさんだ。アタシとオゴデイくんは、まとめて突き飛ばされた。
シャリンさんはゲンコツを踏み台にして跳び上がる。上空で宙返り。落下の勢いで、強烈な突き技が炸裂する。
“Bloody Minerva”
シャリンさんの剣技は一撃では止まらない。剣が三日月型の軌跡を描く。
“Angry Diana”
さらに、いちばん得意な七連撃。
“Wild Iris”
「すごい、1人でコンボ決めてる」
唖然、呆然。さすがはピアズ史上最強クラスの戦士。
そのとき、ニコルさんが悲鳴をあげた。
「うわっ! ごめん、ルラちゃん、よけて!」
「はい?」
ニコルさんのムチを振り切ったマーリドの右腕が、アタシの頭上にあった。空がさえぎられている。影が落ちて視界が暗い。5本の指を大きく開いた手のひら。
え? これ、ヤバくない?
思考が止まった。回避? 魔法? とりあえず移動? どうしよう? 手のひらが迫ってくる。
目を閉じてしまった。だから、決定的瞬間を見なかった。
コントローラが震動する。ヒット判定。でも、大ダメージじゃないのはどうして?
目を開ける。アタシは地面に転がってる。アタシはカメラを頭上に向ける。マーリドの右手がこぶしをつくってる。こぶしは何かを握っている。灰色の、何か。
「オゴデイくん!?」
マーリドの手のひらに握られて、オゴデイくんは、かろうじて頭だけが出ている。青い目がアタシに微笑んだ。
「ルラさんが無事でよかった」
「アタシをかばったの?」
「はい」
「バ、バカだよ!」
マーリドの巨大な顔が、ニィッと笑った。
「灰色の犬コロを、とらえた。なぶり殺しにしてくれよう。ゆっくりと、握りつぶしてくれよう」
ニコルさんとシャリンさんが同時に叫ぶ。
「やめろ!」
「朝綺っ!」
アタシはラフさんを見た。バトルフィールドの外で立ったまま、ガクガク震えてる。壊れた人形みたい。焦点の合わない目をした不気味な姿で。
オゴデイくんのスタミナがじわじわ減り始める。
「アタシがボーッとしてたせいで……」
オゴデイくんと、オゴデイくんに憑いた朝綺さんの魂が、ピアズから消えてしまう。