きみと駆けるアイディールワールド―緑風の章、セーブポイントから―
不思議。
アタシ、今、本気でゲームの中にいる。意識全部でログインしてる。アタシの感覚は丸ごと完全にルラになってる。
ニコルさんが、ときどき、ひゅっと息をつく。シャリンさんが低くつぶやき続ける。
朝綺さん、という人。どんな人なんだろう? 眠っている顔を見ただけだから、アタシはまだ会ったともいえないけど。
話してみたいって思う。友達になりたい。だって、風坂先生を風坂先生にした人だから。アタシの好きな人の、とても大事な親友さんだから。
朝綺さんと話すことができたら、アタシ、風坂先生みたいに強くなれる気がする。パパの病気と本気で向き合えるようになる。
だからお願い、朝綺さん。風坂先生と麗さんのもとに帰ってきて。
「いけた!」
シャリンさんの声が弾んだ。
グラフィックに変化が起こった。緑色の輝きに拘束されたマーリドの姿から、滑らかさが失われていく。画質が急激に下がっていく。
マーリドがざらざらした声を上げた。何かしゃべったんだろうけど、聞き取れない。
「ニコル、ルラ、魔法を止めていいわ」
「了解」
「はい」
マーリドは今、まるでモザイクだ。細かいブロック片の集まりが絵を描いてる。ずーっと昔のゲーム画面のドット絵ってやつより、もっと粗い。
シャリンさんが命令するみたいにささやいた。
「削除《デリート》、開始」
ざーっ、と水が流れる音に似たノイズが、スピーカから聞こえた。
ほどけていく。マーリドだったモザイクが下のほうから、ざらざらとほどけて消えていく。背景のグラフィックに痕跡すら残さずに。
アタシはニコルさんの杖から手を引っ込めた。あちゃー、スタミナがレッドゾーンだ。立ってられない。ぺたん、と座り込みそうになった。
「おっと、危ない」
はい? 視界には、緑色のローブの腕と胸。カメラアイを上に向けると、切れ長な目が微笑んでいた。
「えっと、これ、あの」
ニコルさんに抱き留められてる。
「お疲れさま」
匂いを思い出した。風坂先生が傘の内側でタオルを貸してくれたときの、タオルの匂いと風坂先生自身の肌の匂い。ピアズの世界には匂いがないのに。
ドキドキする。
ニコルさんが視線を上げた。見てごらん、と言われて、アタシも慌ててそっちにカメラアイを向ける。
オゴデイくんが、マーリドにつかまった形のまま、何もない空中に宙吊りになっている。少し苦しそうな表情もそのままだ。
「オゴデイくん、フリーズしてるんですか?」
アタシの質問にシャリンさんが答えた。
「問題ない。一時的に止めてるだけ。オゴデイじゃないデータ群を特定した。この言語は……何よ、スラング? 間違いなくアンタね、朝綺」
アタシ、今、本気でゲームの中にいる。意識全部でログインしてる。アタシの感覚は丸ごと完全にルラになってる。
ニコルさんが、ときどき、ひゅっと息をつく。シャリンさんが低くつぶやき続ける。
朝綺さん、という人。どんな人なんだろう? 眠っている顔を見ただけだから、アタシはまだ会ったともいえないけど。
話してみたいって思う。友達になりたい。だって、風坂先生を風坂先生にした人だから。アタシの好きな人の、とても大事な親友さんだから。
朝綺さんと話すことができたら、アタシ、風坂先生みたいに強くなれる気がする。パパの病気と本気で向き合えるようになる。
だからお願い、朝綺さん。風坂先生と麗さんのもとに帰ってきて。
「いけた!」
シャリンさんの声が弾んだ。
グラフィックに変化が起こった。緑色の輝きに拘束されたマーリドの姿から、滑らかさが失われていく。画質が急激に下がっていく。
マーリドがざらざらした声を上げた。何かしゃべったんだろうけど、聞き取れない。
「ニコル、ルラ、魔法を止めていいわ」
「了解」
「はい」
マーリドは今、まるでモザイクだ。細かいブロック片の集まりが絵を描いてる。ずーっと昔のゲーム画面のドット絵ってやつより、もっと粗い。
シャリンさんが命令するみたいにささやいた。
「削除《デリート》、開始」
ざーっ、と水が流れる音に似たノイズが、スピーカから聞こえた。
ほどけていく。マーリドだったモザイクが下のほうから、ざらざらとほどけて消えていく。背景のグラフィックに痕跡すら残さずに。
アタシはニコルさんの杖から手を引っ込めた。あちゃー、スタミナがレッドゾーンだ。立ってられない。ぺたん、と座り込みそうになった。
「おっと、危ない」
はい? 視界には、緑色のローブの腕と胸。カメラアイを上に向けると、切れ長な目が微笑んでいた。
「えっと、これ、あの」
ニコルさんに抱き留められてる。
「お疲れさま」
匂いを思い出した。風坂先生が傘の内側でタオルを貸してくれたときの、タオルの匂いと風坂先生自身の肌の匂い。ピアズの世界には匂いがないのに。
ドキドキする。
ニコルさんが視線を上げた。見てごらん、と言われて、アタシも慌ててそっちにカメラアイを向ける。
オゴデイくんが、マーリドにつかまった形のまま、何もない空中に宙吊りになっている。少し苦しそうな表情もそのままだ。
「オゴデイくん、フリーズしてるんですか?」
アタシの質問にシャリンさんが答えた。
「問題ない。一時的に止めてるだけ。オゴデイじゃないデータ群を特定した。この言語は……何よ、スラング? 間違いなくアンタね、朝綺」