きみと駆けるアイディールワールド―緑風の章、セーブポイントから―
バトルモードのウィンドウに赤字でエラーと表示された。自動的に、モードが通常へと切り替わる。
アタシの視界に、ふらっと、黒髪の後ろ姿が割り込んだ。
「ラフさん!?」
夢遊病みたいな足取りで、ラフさんが歩いていく。そして、オゴデイくんを仰いで立ち止まった。
襟足で1つにくくった、粗い黒髪。交差して背負った、2本の大剣。裸の上半身に軽量メイルを着けて、皮膚という皮膚には赤黒い紋様が浮かび上がっている。筋肉質に引き締まった右腕が、オゴデイくんへと差し伸べられる。
シャリンさんが告げた。
「分離《セパレート》、完了。戻りなさい、朝綺」
オゴデイくんの灰色っぽい毛並みがきらめいた。きらめきがふわりと浮き上がって、1つの形を作る。人の形だ。髪の長い男の人、背中に2本の大剣を装備した戦士の姿だ。
「あれが、ラフさんの魂……」
きらめきの双剣戦士は、きょろきょろして、ちょっと首をかしげて、ほっぺたを掻いた。「ここ、どこだっけ?」と言うみたいに。
シャリンさんが駆け付けて、ラフさんの体の隣に立った。腕を掲げるラフさんと同じように、シャリンさんもラフさんの魂へと手を伸ばす。
「こっちに来て! アンタの居場所はここ、ワタシの隣。戻ってきて、朝綺。お姫さまのキスで目を覚まして」
おとぎ話にあるよね。王子さまにかけられた呪いを解くためのキス。お姫さまの愛のキス。それが麗さんと朝綺さんのパスワードなのかもしれない。
きらめくシルエットのラフさんがシャリンさんを見た。ハッキリとうなずく。足を踏み出す。透明な階段が空中に存在するように、1歩ずつ降り始める。
と同時に、オゴデイくんのフリーズが解けた。すとんと着地して、ブルーの目をパチパチさせる。
シャリンさんが飛び出した。神速の異名を持つ身軽さで跳び上がる。きらめきが形作るラフさんの右手を、ギュッと握りしめる。その手を引っ張りながら、くるりと振り向く。
「もとに戻って……!」
シャリンさんは、きらめきを連れて走った。きらめきが手を伸ばした。立ち尽くして待つラフさんの手が、その先にある。
ラフさんの魂と体が触れ合った。
きらめきがほどける。形をなくしながら、ラフさんの体へ染み入っていく。一瞬の出来事だった。ラフさんがまばたきをした。
シャリンさんが、震える声で呼んだ。
「朝綺……?」
ラフさんのアバターは動かない。でも、かすかに、スピーカから聞こえた。
「ぁ……」
吐息みたいな、ほとんどかすれた声。男の人の声だ。
風坂先生がコントローラを投げ出した。
「朝綺、目を覚ましたのか!?」
画面の中のシャリンさんは棒立ちになってる。きっと風坂先生と同じ理由だ。ピアズどころじゃなくなったんだ。スピーカが涙混じりの声を届けてくれる。
「おにいちゃん、すぐこっちに来て! 朝綺が目を開けてる! リップパッチが感知できるほどじゃないけど、唇も頬もちゃんと動いてる! 呼んでくれてるの、『うらら』って……!」
アタシの視界に、ふらっと、黒髪の後ろ姿が割り込んだ。
「ラフさん!?」
夢遊病みたいな足取りで、ラフさんが歩いていく。そして、オゴデイくんを仰いで立ち止まった。
襟足で1つにくくった、粗い黒髪。交差して背負った、2本の大剣。裸の上半身に軽量メイルを着けて、皮膚という皮膚には赤黒い紋様が浮かび上がっている。筋肉質に引き締まった右腕が、オゴデイくんへと差し伸べられる。
シャリンさんが告げた。
「分離《セパレート》、完了。戻りなさい、朝綺」
オゴデイくんの灰色っぽい毛並みがきらめいた。きらめきがふわりと浮き上がって、1つの形を作る。人の形だ。髪の長い男の人、背中に2本の大剣を装備した戦士の姿だ。
「あれが、ラフさんの魂……」
きらめきの双剣戦士は、きょろきょろして、ちょっと首をかしげて、ほっぺたを掻いた。「ここ、どこだっけ?」と言うみたいに。
シャリンさんが駆け付けて、ラフさんの体の隣に立った。腕を掲げるラフさんと同じように、シャリンさんもラフさんの魂へと手を伸ばす。
「こっちに来て! アンタの居場所はここ、ワタシの隣。戻ってきて、朝綺。お姫さまのキスで目を覚まして」
おとぎ話にあるよね。王子さまにかけられた呪いを解くためのキス。お姫さまの愛のキス。それが麗さんと朝綺さんのパスワードなのかもしれない。
きらめくシルエットのラフさんがシャリンさんを見た。ハッキリとうなずく。足を踏み出す。透明な階段が空中に存在するように、1歩ずつ降り始める。
と同時に、オゴデイくんのフリーズが解けた。すとんと着地して、ブルーの目をパチパチさせる。
シャリンさんが飛び出した。神速の異名を持つ身軽さで跳び上がる。きらめきが形作るラフさんの右手を、ギュッと握りしめる。その手を引っ張りながら、くるりと振り向く。
「もとに戻って……!」
シャリンさんは、きらめきを連れて走った。きらめきが手を伸ばした。立ち尽くして待つラフさんの手が、その先にある。
ラフさんの魂と体が触れ合った。
きらめきがほどける。形をなくしながら、ラフさんの体へ染み入っていく。一瞬の出来事だった。ラフさんがまばたきをした。
シャリンさんが、震える声で呼んだ。
「朝綺……?」
ラフさんのアバターは動かない。でも、かすかに、スピーカから聞こえた。
「ぁ……」
吐息みたいな、ほとんどかすれた声。男の人の声だ。
風坂先生がコントローラを投げ出した。
「朝綺、目を覚ましたのか!?」
画面の中のシャリンさんは棒立ちになってる。きっと風坂先生と同じ理由だ。ピアズどころじゃなくなったんだ。スピーカが涙混じりの声を届けてくれる。
「おにいちゃん、すぐこっちに来て! 朝綺が目を開けてる! リップパッチが感知できるほどじゃないけど、唇も頬もちゃんと動いてる! 呼んでくれてるの、『うらら』って……!」