ハロー、マイファーストレディ!
透との関係を兄弟と表現するならば、大川との関係は父子だ。
父の代から勤めている公設秘書で、中でも選挙区に常駐する地元秘書である大川は、幼少期より俺の成長を見守ってきた一人だ。
昔は地元で後援会の活動などを取り仕切る傍ら、時間を遣り繰りしては授業参観や運動会など、俺の学校行事にも顔を出した。
もちろん、同時にその場にいる保護者(彼等ももちろん有権者なのだ)へのアピールも忘れなかったが、何より母親が居なかった俺のことを不憫に思っての行動であったことは幼心によく理解していた。
「大切な法案審議中に申し訳ありません。」
折り目正しく頭を下げる大川に、すぐに頭を上げさせる。
外なら仕方ないが、ちょうど事務所の中には俺と大川、透の三人しか居ない。気心知れた間柄だから、堅苦しい空気は無しにしたかった。
「ここでは素の高柳征太郎に戻りたいみたいですよ。」
すぐに、俺の意図に気が付いて透が口を挟む。それを聞いて、大川が納得したように微笑んだ。
「透、余計なこと言うな。大川も、はやく用件を言え。時間がない。」
冷たく切り捨てたが、内心はホッとしているのも事実だ。
仮面をかぶり続けるのにも限界がある。
透も大川もそれが分かっっているから、二人とも肩の力をすぐに抜いた。