ハロー、マイファーストレディ！
「先生でも、そんな顔するんですね。」

と、橋元の暢気な声で我に返った。

「どういう意味かな？」

慌てていつものように真面目な顔で問い掛けた。
橋元が萎縮しないように、あえて口元は緩ませる。
秘書相手にも気を遣う。悪い噂の出所を探ってみれば実は身内だったなんて、よくある話だ。

「あっ、いえ、悪い意味ではないです。」

慌てて橋元が弁明する。

「いつもの先生の笑顔も素敵ですけど、さっきは、何というか…もっと少年みたいな無邪気な笑顔だったので。」
「…そうか？別にいつもと変わらないが。」

しまった。ついつい、気を抜いてしまっていたらしい。
俺はもう一度気を引き締めて、政治家・高柳征太郎の顔を作る。

「ああ、だめですよ。せっかく自然ないい表情してたのに。やっぱり、先生も恋人の前ではリラックスされるんですね。安心しました。日頃の先生を見てると、まるでサイボーグみたいな生活ですから、心配だったんです。」

したり顔で俺のことを語る橋元に、心の中で「余計なお世話だ」と毒づきながらも、一応礼を言う。橋元もそれなりに俺のことをよく見ているのだろう。そもそも、気を抜いた表情を見抜かれたのは意外だった。

「橋元君にまで、心配を掛けているとは知らなかった。気をつけないとな。」
「そうです。折角ですから、真依子さんとゆっくりなさって下さい。お邪魔虫は、これをいただいたら消えますので。」

慌ててお茶を啜る橋元に「ゆっくでいい」と告げて、時計を見る。
はっきりと食べると返事をしていないのに、真依子は俺の分らしい料理を並べていた。

まあ、時間的にも余裕があるし、いただくとするか。

俺は大人しく、用意された食卓に着いた。
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