ハロー、マイファーストレディ!
「すみません、横井大臣からいただいたお話の件です。」

ホッと和んだ気分から一転、一瞬にして俺はイライラし始めた。

「あの狸、しつこいな。」
「相変わらず征太郎クンはモテモテだね~。」

思わず悪態をついた俺を、透がからかう。
この話というのが、横井の娘との縁談だからだ。

「一度やんわりとお断りしたのですが、先日もう一度考えてくれと。」

おそらく、大川も何とか穏便に済まそうと動いたのだろうが、相手は党の中でも一大派閥のナンバーツー、しかも現役の大臣だ。
一秘書が逃げたところで、捕まってごり押しされればそれまでである。

「何度考えても、同じだ。政治家の娘と結婚なんてまっぴらごめんだ。横井の娘も、化粧の濃い、わがままそうな女だぞ。」

横井の娘には何度もパーティーで会ったことがあった。
横井は、よほど俺を味方に付けておきたいのか、昔からやたら娘を押し売りしてくるのだ。

「坊ちゃん!…あ、いや、先生!わがままかどうかまでは分かりませんし。それに、横井先生の後ろ盾があれば…」

プライベートな会話で少し感情的になると、大川は癖で昔の呼び名が出てしまうことがある。
よくあることなので、俺もスルーだ。
ごちゃごちゃと話を続ける大川を俺はすぐに遮った。

「やんわり断って迷惑だと伝えているのに、ごり押ししてくるのは、わがままとは呼ばないのか?とにかく、横井ごときの後ろ盾など必要ない。」

俺がぴしゃりと言い切ると、大川は両手を上げて降参の意志を示した。
もとより、大川もそれほどこの縁談を推しているわけではない。
ただ単に波風を立てないように、一度会ってみてはどうかと言いたいだけなのだ。
だが、見合いをしたら最後、ますます断り切れなくなるのは目に見えている。
< 11 / 270 >

この作品をシェア

pagetop