ハロー、マイファーストレディ!
ソファに腰を下ろすと、一気に気が抜けて、眠気が襲ってくる。
俺の口から大きな欠伸が出たところを、透に目ざとく指摘された。
「昨日は婚約者とお楽しみだった訳だ。」
透が何を勘違いしたのか、ニヤニヤとこちらに笑みを向けてくる。
俺は小さくため息を付いてから、応戦する。
「いや、今日は早朝出発だったせいだ。お前がニヤニヤするような出来事は何もない。」
「仮にも健康な若い男女が、一つ屋根の下で夜を共にする。何もない訳ないだろう。」
「お前と一緒にするなよ。寝る部屋も別々だ。俺は自分の部屋。真依子は…お前がよく使ってた部屋だ。」
「ああ、あの部屋か。いろいろと懐かしいな。」
「久々に入ったが、驚くほど昔と変わってなかった。美佐枝さんが時々掃除してくれてるらしい。お前が持ってきたソファもそのままだぞ。」
「ああ、あのソファな。」
透が遠くを見つめて、懐かしそうに目を細めた。
あのソファは、高校の頃から家によく泊まりに来ていた透が持ち込んだものだった。
当時から女遊びが激しかった透は、女連れでやってくることもしばしばで。
女を連れ込んでいい雰囲気になっても押し倒す場所がないなどと、ふざけたことを言い出して、友人宅で不要になっていたソファを貰ってきて勝手にあの部屋に置いたのだった。
「俺が童貞を捨てたソファで、真依子ちゃんとイチャイチャしたのか?」
「その言い方、やめろよ。」
「だって、事実だしな。」
「…最悪だ。想像したくもない。」
「否定しないところを見ると、いちゃついたのはアタリってとこか。」
なぜだか妙に勘のいい透に、イライラとして睨みを利かせる。
同時に、あの夜の真依子のとろけるような瞳と唇の柔らかな感触を思い出す。
それをかき消すように、思わず声を荒げた。
「婚約者といちゃついて何が悪い。」
「開き直ったな。」
「言っておくが、あくまで婚約者らしく見えるように練習したまでだ。肩を軽く抱くだけでも、あの狼狽え方だ。このままじゃ、絶対に周りに怪しまれる。」
「ハイハイ、ご熱心なことで。」
「ちなみに、昨日の夜は二人で遅くまで将棋を指してた。ほんの腕試しのつもりで始めたのが、なかなか互角の勝負で白熱して。まあ、“共通の趣味”にするには、悪くない選択だった。」
「…二人ともどんだけ真面目なんだよ。」