ハロー、マイファーストレディ!
資料に目を通しながら、大ぶりのおにぎりに手を伸ばす。
具は焼鮭だった。
特に要望など聞かれていないはずなのに、具のチョイスも飯に香ばしい胡麻がまぶしてあるところも、俺の好みドンピシャだった。
米粒を咀嚼しながら資料に集中していると、再び横から透がため息混じりに呟いた。俺は目線を上げずに答える。
「俺でも、たまに忘れるからな。」
「何をだよ?」
「高柳征太郎は、サイボーグでも何でもない。生身の人間だってことだ。」
「当たり前だ。何、言ってる。」
「その様子だと、自分が一番忘れてるのか。」
「まともに話す気がないなら、後にしろ。仕事に集中したい。」
俺の不機嫌前回の発言に、透は何が可笑しいのかクスクス笑いながら付け足した。
「気づいてないならそれでもいいけど、一人の友人としてはお前の変化をうれしく思うよ。」
「何が言いたいか分からんが、特に変わったことなんてない。」
「別に無自覚でもいい。大川さんも喜ぶだろうな。もっとも、秘書としては、サイボーグの方が仕事はやりやすいけど。」
「やらせやすいの間違いだろう?俺は今日も変わらず、サイボーグのように働くつもりだよ。」
依然としてニヤニヤと気色の悪い笑みを向けてくる透を無視して、俺はひたすら手元の資料を読み続けた。
自分の中の変化に、気が付いているのは俺も同じで。
しかし、“それ”について深く追求することを、俺はあえて避けていた。
時がくれば、嫌でも認めざるを得ない何かから。
今はまだ、目を背けていても許される気がしたのだ。