ハロー、マイファーストレディ!
□ 気持ちの変化と落とし穴
「やっぱり、内海さんじゃないとのぉ。」
目を細めながら嬉しそうに差し出された老人の腕に、狙いを定めて一気に針を刺す。
すかさずセットした採血管に、静脈からゆっくりと血液が流れ込んできた。
「はい、山井さん。終わりましたよ。」
「おお、やっぱり内海さんだと早いのぉ。」
「午後から検査があるので、時間になったら迎えに来ますね。」
「ほい、待っとるよ~」
ベッドの上から嬉しそうに手を振る山井さんに脱力しつつ、病室を後にした。
三週間の休養(という名の謹慎)を経て、私は仕事へと復帰した。
征太郎が手を回したのか、病院へも自宅へもマスコミがやってくることはなくなり、私はすっかり平穏な日常をとり戻していた。
とはいえ、完全に元の生活に戻った訳ではない。
「うわぁ、やっぱり綺麗ね。」
「今までと印象がだいぶ違うよね。」
「恋すると、やっぱり人って変わるのよ。私もイケメンと恋したい!」
廊下を歩けば、院内のスタッフや入院患者から向けられる興味本位の視線と、聞こえてくるヒソヒソ話に、今日も気付かれないようこっそりとため息を落とした。
しかし、復帰した初日から、以前よりも華やかになったメイクで出勤した私を待っていたのは、意外なことに、とても好意的な羨望の眼差しだった。
多少は覚悟していたものの、この女子受けを狙ったメイクのお陰か、それとも征太郎の対応がよかったのか、今のところコソコソと噂されてはいるが、悪意を含んだ嫌がらせなどは一切受けていない。