ハロー、マイファーストレディ!
“今から行く”
日勤の勤務を終えて、アパートの部屋で寛いでいると、突然スマホがメッセージの受信を知らせる。
たった五文字の素っ気ないメッセージは、他でもないビジネスライクな婚約者からのもので、こちらに戻ってきてから約一週間振りの連絡だった。
高柳征太郎の地元事務所で過ごした三週間には、頻繁に顔を合わせていたが、どうやらそれは、私が婚約者らしく振る舞えるよう“訓練”するためのものだったらしい。
通常、国会会期中に地元へ戻ることはほとんど無いと、後から大川さんに聞いて知ったのだ。彼がわざわざ無理してまで地元に日参した甲斐あってか、私は彼に至近距離で触れられても動揺が顔に出ない程度には“成長”していた。
今週、通常国会は閉会し、件の医療情報管理法案も無事に成立した。
予定では、征太郎は閉会直後の地元回りを終えて、今日の朝には東京に戻っているはずだ。
私が彼の予定を把握している(谷崎さんが定期的に連絡をくれる)ように、私のシフトも伝えてあるため、当然のように今日この時間に私が自宅に居ると分かっているのだろう。
「行ってもよいか」ではなく「行く」と送られてきたのは、それがすでに決定事項だということだ。
何の用があって来るのかを考えながら、キッチンに立っていたら、すぐにインターフォンが鳴る。セキュリティーの甘い安アパートの我が家にはカメラ付きのインターフォンなどという便利なものは無い。ドアスコープを覗けば、不機嫌な表情で佇む婚約者の姿があった。