ハロー、マイファーストレディ!

「不用心過ぎる。今時女のひとり暮らしにオートロック付きは当たり前だろう。」

玄関ドアが閉まるなり、人の住まいにケチを付けだした征太郎は、とても初めて来たとは思えないくらい、つかつかと私のプライベートスペースに踏み込んできた。

「職場に近くて、私のお給料で無理なく住める物件の中ではマシな方だと思うけど。」
「玄関にカメラくらいつけろ。今度、手配するから。」

いらぬお節介を焼きながら、我が物顔でソファーに腰掛ける。
狭いワンルームのため、ソファーの前には低めのダイニングテーブル、真正面に高めのテレビボードが置いてある。ゆえに、テレビを見ながら寛ぐのも、ご飯を食べるのもほぼこの場所だ。そして、右手には窓際に置かれたベッドが丸見えだった。
職業柄、一応清潔感は保っているつもりだが、日頃の暮らしぶりが丸裸にされているようで、どうにも居心地が悪い。
お茶でも淹れようとキッチンに向かえば(当然キッチンは壁付けだ)背後から話しかけられた。

「三時間くらいしたら、帰る予定だ。」
「は?」

来たばかりだと言うのに、帰る時間を言われて、思わず間抜けな声を上げてしまった。
確かに、もうすぐ時計の針は夜の8時を指し示そうとしているし、あまり長居されても困るのだが、用件より先に滞在時間を告げるのはどういう訳か。
首を傾げる私に征太郎は、ニヤリと笑ってから話を続けた。

「透が言うには、三時間くらいが色々想像を掻き立てられて、ちょうどいいらしい。」
「それは、誰の?」
「週刊誌の読者の。」

言われたことの意味がはっきりとは理解できずに眉間に皺を寄せると、ようやく懇切丁寧に説明し始める。

「追ってきた週刊誌の記者を、わざと引き連れてきた。」
「連れてきたって、どこに?」
「このアパートの前までだ。気が付いていないフリをして、アパートに入るところの写真を撮らせた。」
「…いったい、どういうつもり?」

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