ハロー、マイファーストレディ！

「これ、目に線が入ってないのも見たけど、一瞬俺もドキッとするくらい可愛かった。」
「…ソレハ、ドウモ。」
「あの真依子ちゃんが、短期間でこんな表情が出来るようになるなんて、いったい征太郎とどんな“特訓”やったの？」
「別に、ただ慣れただけです。笑ったのも演技だし。」
「なあんだ。それはざんねん。…ホントに征太郎のこと好きになってくれたのかもって期待したのに。」
「それは、あり得ません！」

悪ふざけを咎められた時のように、肩ををすくめた谷崎さんは、懲りていないのか、またもや意味深な視線を送ってくる。

「真依子ちゃんはそうでも、征太郎はどうかな？」
「結婚するのに都合のいい相手としか思ってないと思いますよ。」
「そう？案外、本気かもよ？」

まっすぐに、何かを探るように私の瞳を見つめた谷崎さんは、ふっと息を小さく漏らすと、柔らかく微笑んだ。

「少なくとも、今までの征太郎なら、こんなことはしなかっただろうから。」

言われた事の意味がよく分からずに、にこにこと笑う谷崎さんに向けて首を傾げると、彼は何も言わずに傍らの小さな紙袋からリボンの掛けられた箱を取り出して、私の前に置いた。

「開けて。征太郎からのプレゼントだ。自分で渡せって言ったんだけどね。」

申し訳なさそうに肩をすくめる谷崎さんに促されて、リボンを解いて包みを開ける。中身が何か分かった瞬間に、思わず息を飲んだ。


箱の中央に鎮座するのは、腕時計だった。
ステンレスのブレスレットに、やや小振りなディープブルーの文字盤。
装飾は少なく、シンプルでスタイリッシュなデザインだ。
機械式なのか、針は適当な時刻を指して止まっていた。
言わずと知れた、海外の有名メーカーのものだ。