ハロー、マイファーストレディ!
「突然、申し訳ありません。仕事の予定がどうなるか分からなかったので、事前にお約束していると失礼になるかと思いまして。」
「いや、こちらこそ直接お会いできて、嬉しいです。真依子ちゃんに会えただけでも、感謝しなくてはならないのに。」
「そうね。お二人が並んでいるところを見られて、とても幸せだわ。こうして見ると、本当に二人ともお似合いね。」
突然の征太郎の登場に何も知らされていなかった叔父夫婦と私は、少しだけ面食らったものの、和やかにテーブルを囲んでランチを楽しむ。
どうやら、お詫び行脚の合間を縫って駆けつけたようだ。
私はというと、時折征太郎から向けられる甘い視線に微笑んで見せながら、彼が話を進めるを冷静に見守っていた。
普段とはまるで別人の征太郎は、あっという間に叔父夫婦の心を掴んでいく。
「真依子さんを、必ず幸せにします。」
真摯な瞳で叔父に誓う姿を、私はどこか冷めた目で見つめていた。
計画の為に、どうしても叔父夫婦に怪しまれる訳にはいかないと考えたのだろう。いつになく、丁寧な“仕事振り”だ。
やっぱり、この男は詐欺師だ。
期待を裏切られた時のように、私の心にすーっと冷たい空気が流れ込んでくる。
期待?
私はこの男にいったい何を期待していたというのか。
努力家で真面目な一面を
プライベートの顔を
時折見え隠れする本音を
少し見せられたくらいで絆されては、いけない。
強引な口づけも
私を見つめる熱い視線も
まるで恋人のように優しく抱きしめる腕も
彼にとっては全て演技で、計画のためのパフォーマンスに過ぎない。
私まで騙されてはいけないのだ。
「真依子ちゃんは、高柳さんのどこが一番好きなの?」
叔母がにこにこしながら、芸能レポーターばりのミーハーな質問を投げかけてくる。私は少しはにかんだように笑ってから、婚約者の目を見つめながら言う。
「一番は、誠実なところかな。絶対に嘘をつかないところ。」
その答えに、叔母は「まあ、素敵!」と満足そうに笑って、征太郎はふっと可笑しそうに小さな笑いを一つ漏らした。
私は、危うく落とし穴に落ちそうになった自分に渇を入れながら、大分板に付いてきた幸せそうな微笑みをひたすらに振りまいていた。