ハロー、マイファーストレディ!
□ この世で一番嫌いなもの
どうして、こんなことになったのだろうかと考える。
特別室のあるフロアに向かうためには、エレベーター内の機械に職員用のICカードをかざさなくてはならない。
名札と一緒に首から下げているそれを、機械の読み取り部に当てれば、ピロロンと軽快な電子音が鳴った。
私が勤める森ノ宮記念病院は、特別室が充実している。
有名・著名人が安心して入院生活を送れるよう、最上階の特別室のフロアは関係者以外立ち入り禁止になっていて。
各部屋にトイレやシャワールームが完備されているだけでなく、豪華な内装とインテリアはまるで高級ホテル並みだ。
最上階に着いて、これまた絨毯張りの豪華な廊下に足を踏み入れる。
正面に見える特別室専用のナースステーションへと向かった。
「お疲れさまです。3B病棟の内海です。」
カウンター越しに声を掛ければ、すでに師長から連絡があったのか、中にいたナースが点滴のセットが入ったトレイを差し出してきた。
「五番のお部屋です。お願いしますね。」
「五番ですね。分かりました。準備ありがとうございます。」
さっとそれを受け取って、五番の部屋へと急ぐ。
特別室のフロアで働く看護師は、マナーや作法の特訓も受けているVIP相手の看護のスペシャリストだ。
彼女たちは雑談はおろか、職務上の会話でも必要最低限のことしか話さない。
必要以上に患者の名前も口に出して呼ばないし、病名が分かってしまうような薬や検査の名前についても滅多に口には出さない。
特別室を利用する患者の中には、極秘に病気の治療をしなくてはならない場合があるからだ。
中には、担当の医師と看護師以外、病室への立ち入りを禁止にする患者もいるという。
トレイの中を見れば、薬液には間違えないように患者の名前のラベルが貼ってあり、医師からの指示書もきちんと添付されていた。