ハロー、マイファーストレディ!
それから、数日後。
再び、真依子と顔を合わせた。
週末に休みが取れた真依子と、揃って後援会の関係者に挨拶をして、地元の行事に顔を出す。
今日は商工会が主催した産業祭だ。地元の特産品を売る屋台が並ぶ会場の中央で、来場者と握手を交わして、関係者と一緒に特産品のPRをする。
看護師の仕事は続けるにしても、政治家の妻としても最低限の働きをしてもらわなくてはならない。選挙の時はもちろん、普段から地元で留守を守るのは、政治家の妻の役目だ。
それが分かっているのか(おそらく大川あたりから事前に諭されているのだろう)、今日の真依子は一段とにこやかに愛想良く振る舞っている。
ベージュのツイードの春らしいスーツに身を包み、肩より少し長い髪をバレッタで清楚なハーフアップにしている。
初々しさを残しつつも、控えめで思慮深い印象を与える絶妙なバランスだ。
「先生、見惚れ過ぎです。」
真依子の姿を観察していると、後ろから地元秘書の橋元に声を掛けられた。
「見惚れてなんて、いない。」
「いや、隠さなくてもいいんですよ。仕方ないですよ、今日の真依子さんは一段と美しいですから。」
「そうか?いつもと変わらないが。」
ニヤニヤと笑いながら、何か良からぬ想像の一つや二つしていそうな橋元に、いつも以上に冷静を装って返事をする。
「いや、絶対にきれいになりました!多分それは先生の所為ですけど。やっぱり女性は恋をするとより一層磨きがかかるんですね~。」
そんな持論を言い捨てて、満足そうに仕事に戻る橋元の背中を見送ってから、再び真依子の姿を視界の端に置く。