ハロー、マイファーストレディ!
あの日から数日ぶりに会った真依子は、あんなことがあったにも関わらず、いつもとさほど変わらぬ態度だった。
数日前に付けた首筋の赤い痕はすでに薄くなっていて、スーツの襟から時折覗く程度では誰も気がつかないだろう。
この数日間、悶々と悩んでいた俺が馬鹿みたいだ。
いつもと違うのは、むしろ俺の真依子を見る目の方で。
気づけば、先ほどのようについ真依子を目で追ってしまい、その美しさに見惚れ、さらには彼女に若い男が近づいてくれば、心の中でそっと舌打ちまでしてしまう始末。
完全に、重症だ。
この年になって、何をやっているのだろう。
俺は、にこやかな笑顔を振りまきつつも、心の中でそっとため息をつくのだった。
「先生、少しよろしいですか。」
ひたすら握手と挨拶に精を出していると、透に肩を叩かれた。
普段は名前呼びにため口だが、当然公の場では透も俺のことを先生と呼び敬語を使う。
何事かと、人混みから少し離れて透の口元に耳を傾けた。
「左手の木の陰。さっきから真依子ちゃんをじっと観察している男がいる。」
そう報告されて、あえて顔を右に向けたまま視界の端で男をとらえる。
年の頃は、五十代半ばか。
この場にそぐわないスーツ姿は確かに不審者に見えなくもないが、遠巻きに話題の人物を眺めているだけのようにも見える。
「もし、不審な動きをしたら、すぐに声を掛けろ。見てるだけで、不審者扱いするわけにはいかないからな。」
「了解。」
そう指示を出す間も、男は何度かチラチラと真依子に視線を送っていた。
透は素知らぬ顔で歩いて行き、近くにいた橋元に声を掛ける。おそらく、あの男に警戒するように言っているのだろう。
橋元はこう見えて空手の有段者だ。いざという時には、それなりに頼りになるだろう。