ハロー、マイファーストレディ!
□ 私が恋愛しない理由
“抱かれてもいい”と思った。
いつものような、からかい半分でもなく。
ましてや、訓練の一環でもない。
向けられた視線は、いくら経験のない私でも、明らかに欲情した男のものだと分かった。
激しい口づけと素肌に触れる彼の手に、私はいつしか何も考えられなくなっていて。
身体の芯が痺れたように、熱くなっていく。
耐えられずに唇の隙間から、息とも声とも判別の付かない何かが漏れた。
やがて胸を探っていた彼の手が、下へとおりてゆくと、とても自分のものとは思えないような声が出る。
“もう、このまま、いっそのこと
強引に全てを奪ってほしい”
空っぽになっていく頭の片隅で、そんなことを考えた直後、男の動きが止まった。
男は、すぐにいつもの冷静な政治家の顔に戻る。
私の心にはまたすーっと冷たい空気が流れ込んだ。
この男に、一体私は何を期待しているのだろう。
例えて言うなら、自分のおもちゃを人に取られて一瞬カッとなっただけ。
でも、その垣間見せた子供のような激情が確かに私の身体を熱く火照らせた。
「悪かった。少し頭を冷やしてくる。」
着衣の乱れを直し、部屋を出て行く彼の背中をぼんやりと見つめていた。
“ああ、なんてことだろう”
まるで嫉妬のような感情を向けられて、信じられないことに、湧いてきたのは悦びで。
離れていく熱に感じるのは、寂しさだ。
“お願い、置いていかないで”
冷静な思考とは別の感情が自分の頭を支配しそうになる。
この感情は、非常にマズい。
私は一生恋などしないと、
あの日から固く心に誓っているのだから。