ハロー、マイファーストレディ!

「一体どういうつもり?」
「どういう……って、婚約者と飯を食うのに、特別な理由でも要るのか?」

私の問い掛けに、征太郎はまるでそんなことを聞く理由が分からないとでも言いたげに返事をして、トングで海老やサザエをグリルに乗せていく。
その姿は、意外にもとても様になっている。

「ここ、よく来るの?」
「ああ、昔はよく来た。最近は忙しくて、久しぶりだな。」
「オシャレなお店ね。デートとか?」

店内は、若者が気軽にデートで来るような明るい雰囲気。ウッドベースの地中海風の内装とインテリアは適度に落ち着くし、料理やワインにもマッチしていている。征太郎が昔来たと言う割には、真新しい内装だった。

「いや、主に透とだ。一人の時もあったか。昔はこんな店じゃなかったんだ。大衆食堂みたいな雰囲気で、とてもデート向きの店じゃなかった。」

その言葉に、周りをぐるりと見回す。店内には客が増え始めていた。デートと思しきカップル達の中に、何組か年配の男性客を見つける。彼らはビール片手に、征太郎と同じように手慣れた様子でバーベキューを楽しんでいた。

「オーナーが代替わりして、改装したんだ。変わってないのは、ここから見える景色くらいだな。」

テラス席からは、道路を隔てて夕暮れの浜辺が見渡せる。頬を撫でる海からの風が心地良い。
景色をぼうっと眺めていたら、目の前のグリルから美味しそうな匂いが漂ってきた。

「焼けたぞ、食べないのか?」

そう言いながら、征太郎はワイン片手にすでにサザエを口に運んでいた。この男が豪快に口を開けて食事をする姿を見るのは、初めてだ。幸せそうに咀嚼しながら、無言で私にも勧めてくる。
私は、なぜこんなことになっているのか、首を傾げながらも、勧められるがままに、新鮮な魚介類を楽しんだ。
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