ハロー、マイファーストレディ!
「美味しい。」
プリプリとしたサザエの身を口に運べば、思わず素直な感想が口から出た。
その小さな声を聞き逃さなかったのか、征太郎は満足そうに微笑んだ。
「だろう?特にサザエは獲れたてなんだ。ホタテは冷凍だが、北海道から取り寄せてる。これも、美味いぞ。」
得意げに語りながら、次々にグリルにホタテを並べていく。向けられた少年のようなあどけない笑顔に、一瞬胸がドキリと高鳴る。思わず視線を外して俯いた私を気にすることなく、征太郎は話し続ける。
「学生の頃は、この海によく来た。地元に居ると、親父の知り合いに必ず会うし。人目を気にするのも、愛想笑いするのも疲れるから。」
「大学は、東京だったんでしょ?東京で暮らせば良かったんじゃない?」
確か、征太郎は有名私学の政治経済学部の出身だ。もちろん、彼の地元からも通学可能だが、高柳家の経済力があれば、東京の一等地で一人暮らしすることも十分に可能だろう。
「一度でも地元を捨てれば、とやかく言う人間はいる。特に地元愛が強い人間ほど、東京に対するコンプレックスは強い。跡を継ぐことを考えたら、地元を離れるのは得策じゃないだろう。」
「いろいろと大変なのね。」
「ああ。でも、時々鬱陶しく思うことはあっても、大変だと思ったことはないな。政治の道を選んだのは、自分自身だ。たしかに、跡取りは俺一人でも別に強制された訳じゃない。それでも、若い頃は窮屈で、たまには解放されたいと思うことが多かった。」
「その度に海に?」
「そうだ。最初は、透が海水浴場にナンパしにいくのに送ってくれと言うから、ドライブがてら車を出したのがきっかけだった。帰り道に、偶然この砂浜と店を見つけた。もう少し北には喫茶店もあるんだ。一日散歩したり、ぼーっと本を読んだり、考え事をしたり。」
「まるで、老後の隠居生活ね。」
「否定はしない。透も、何度もそう言ってからかいに来た。」
「昔から仲が良かったのね。」