ハロー、マイファーストレディ!

食事を終えて店を出る。
入口付近で、征太郎来店の連絡を受けてわざわざ来てくれたという、前のオーナー(今のオーナーのお父さんらしい)に見送ってもらい、笑顔で手を振る。

迎えが来るまで時間があるからと、二人で海岸沿いの歩道を歩いた。
ワインで酔ったのか、ふらつく私の手は、いつの間にか征太郎の手にしっかりと握られていた。

「ここは、海水浴場じゃないの?」
「遊泳禁止だ。離岸流が発生するらしい。だから、海に入る奴は居ない。砂浜に一日座っていても、会うのは犬を散歩させてる地元の人間くらいだな。」
「そう、残念ね。砂浜は綺麗だし、泳いだら気持ちよさそうなのに。」
「泳げるのか?思いっきりインドア派に見えるが。」
「そっちこそ。鍛えてる身体には見えませんが?」
「ちゃんと見たことないくせに、いい加減なこと言うなよ。」

くだらない言い合いをしながら、二人してクスクス笑う。ほろ酔い加減で、海沿いの道を手をつないで歩く。空にはうっすらと白い月が浮かんでいた。

“まるでデートみたい”

そう意識した途端、妙にドキドキしてしまう。頭の中では冷静に、バカみたいだと、必死にその思いつきを打ち消そうとした。
しかし、ちょうどすれ違った犬を連れたカップルが、同じように手をつないでいるのを見て、ますます意識してしまう。

“私たちはどんな風に見えるんだろうか”

今更ながらに、意識してしまうと、繋がれた手から伝わる彼の体温は、すぐに私の体中を巡りだす。特訓の成果でこの頃は触れられても赤面することはほとんど無かったのに、あっという間に私の頬が赤く染まっていったのが分かった。

“このままでは、いけない”

焦って手を振りほどこうとしても、思いの外固く握られていたそれは、簡単にはほどけなかった。
手は繋がれたまま、私は足を止めてその場に立ち尽くす。
突然足を止めた私を振り返った征太郎が、少し驚いた顔で「どうした?」と尋ねた。

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