ハロー、マイファーストレディ!
久々に、夢を見た。
10年前から繰り返し見ている夢だ。
にこやかに笑いながら手を繋いでいた両親が、急に私の手を振り解いて、遠ざかっていく。
夢の中でなぜか幼い少女のままの私は、走って追いかけても追いつかずに、やがて足がもつれて転んでしまう。
夢だから足に痛みはないが、かわりに離された手が急に冷えていく感触は、いつも妙にリアルだった。
ハッと目覚めて枕元の時計を見れば、午前3時を過ぎたところで、私はため息を一つついてもう一度目を閉じた。
きっと、久々にこんな夢を見たのは、夕方に離した手が冷えていくあの感触を味わったせいだろう。
今度は目を閉じても、なかなか寝付けなかった私は、諦めて考え事を始める。
それがますます眠れなくなる要因だとすでに知っているのに、やめられない。
どうして自分は置いて行かれたのか。
両親を失った悲しみと一緒に、難題を突きつけられた私は、あの頃もこうして眠れぬ夜に考えていた。
そして、やがてとても一つのシンプルな答えにたどり着く。
結局、母は最後まで、女だったのだ。
父に恋する可憐な少女のまま、母になり。
そして、最後は娘と生きる道ではなく、愛する人と運命を共にすることを選んだ。
決して、私も愛されて居なかった訳ではない。父も母も私を残して逝くことは、とても辛かっただろう。
でも、母が最後に選んだのは、私ではなく父だった。
そして、父もそんな母を残してはいけなかったのだろう。
そのことが、私には受け止めがたい現実として突き刺さった。
手を離した途端、急速に心までもが冷えていく感触を思い出して。
私はいつもブレーキを掛けていた。
私は母のようにはならない。
恋なんてしない。
冷静な思考や判断が奪われてしまうくらい、誰かのことを愛するなんて。
…怖くて、出来ないと思った。