ハロー、マイファーストレディ!
ピザを注文してから、寝室で部屋着に着替えてきた征太郎を見て、思わず「珍しい」と口に出してしまう。
ボーダーのTシャツにスウェットのパンツ姿の征太郎は、昨日同様にまるでオーラがない。
また見ることの出来た柔らかい表情の彼に、私は思わず表情を緩めた。
それを、馬鹿にされたように感じたのか、「お前も家じゃヨレヨレのTシャツだったくせに」と反撃される。

「ヨレヨレじゃなくて、わざとああいう加工にしてあるのよ。」
「外に出るときにわざわざ着替えたくせに。」
「あれは、写真撮られるって分かってたからでしょ!」
「結局、堂々と見せられない格好ってことだろ?」
「いや、あれでも普段ならコンビニくらい行けるわよ。」
「別に、俺もこれでコンビニくらい行ける。……そんなこと、どうでもいいだろ。ムキになるなよ。」

すっかりリラックスした気分で、笑い合って会話を楽しんでいたら、あっという間にピザが届いた。
二人で向かい合ってビールを飲みながら、ピザをつまむ。昨日と同じように、ずっと取り留めの無い話を続ける。
気まずくなることもなく、終始和やかで、楽しい時間を過ごした後、征太郎が呼んだ迎えのタクシーで帰宅した。

エントランスで見送る彼に、名残惜しい気持ちを抑えて、控えめに手を振った。
フッと小さく笑って手を振り返す征太郎を見て、私はまたとても満ち足りた気分になったのだった。


この日、ささやかな幸せを感じていた私は、まだ知らなかった。


──この五日後、
それが呆気なく崩れ去ることを。
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