ハロー、マイファーストレディ!
嫌悪感たっぷりの視線を向けても、彼は一切動じなかった。
その瞳を細め、口にも穏やかな笑みを浮かべると、先ほどとは打って変わって、柔らかな声色で囁いた。

「君と一度ゆっくり話がしたい。」
「何故?」

間髪入れずに問いただせば、彼の瞳が待ってましたとばかりに、私の瞳を甘くとらえた。

「何故って…君のことが気になるから。」

ほら、やっぱり。
その貼り付けたような微笑みにも、甘い囁きにも、私の心は揺れ動かなかった。
それどころか、冷たいものが心の中に流れ込むのを感じる。

すぐに心にも無いことを言う。
笑顔の仮面の裏に、真っ黒な野心を隠しながら、甘い言葉を囁く。
その手口は、まるで詐欺師だ。

私は彼の手を思い切り振り切って、彼と距離を取った。
こうしてしまえば、点滴に繋がれた彼はすぐに身動きが出来ない。
ドアに向かって一直線に歩き出す。
背後で軽い舌打ちとともに彼の声がした。

「明後日、仕事の後に食事に行こう。ここまで、迎えに来るよ。」

明後日は日勤の予定だ。
残業したとしても、六時には仕事が終わる。
どうやら、私のシフトはこの詐欺師に把握されているらしい。

私は、返事もしないまま、病室を出てドアを閉めた。
言いようのない不快感が心を埋め尽くす。
どうせ、全てを思いのままにできると思っているのだろう。
でも、それは間違いだ。


私は、
この世で一番、
この男のような、
政治家がきらいだ。


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