ハロー、マイファーストレディ!
母は、おそらく父のことを愛していたのだろうと思う。
愛していたが故に、父が離れていくことを恐れ、次第に追い詰められていった。
そして、やがてやってくるかもしれない残酷な現実に耐えられる自信がなくて、自ら先に逃げ出したのだ。

「ごめんなさい。私は、あなたを置いて、自分だけ逃げ出したの。本当に酷い母親だわ。でも、あの頃はもう自分でも冷静に物事を考えられる余裕がなくて。」

離婚する直前、いつも思い詰めたような暗い顔をしていた母を思いだす。おそらく、あのまま別れていなければ、精神的に病んでいたかもしれないことを思えば、とても目の前の母を責められなかった。

「離婚したいと言った時、お父さんはとても申し訳なさそうな顔をして言ったわ。僕もいつ君を解放してあげようか、悩んでいたところだったって。そして、離婚の条件は、何でも私の言うとおりにしてくれると約束してくれた。」

母が提示した離婚の条件は、父が生涯俺以外に子どもを設けないことだった。
しかし、それは俺を確実に跡取りにするため、ではなかった。

「もうこれ以上、私みたいに苦しむ人を作ってほしくはなかった。」

母は嗚咽混じりに、本当の理由を口にした。
どうしても過去から抜け出せない父を、本気で愛して傷つく人間を増やしたくなかったと。

「傷つくのが自分だけならいいわ。彼を愛した自分の責任ですもの。でも、子どもは違う。生まれてくる親は選べないもの。」

そして、俺みたいな可哀想な子どもは一人で十分だと。
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