ハロー、マイファーストレディ!
「勝手な言いぐさよね。自分は子どもを捨てておいて。落ち着いてから、死ぬほど後悔したわ。でも、全てが遅かった。」

母は何度も何度も繰り返し俺に対して頭を下げた。それを、何度目かで俺は制した。

「お母さん、もういいです。俺は別にそれほど酷い仕打ちを受けたとは思ってはいません。小さい頃から大川が側に居ましたし、兄弟のような友人もいたので、それほど寂しい思いをしたことはありませんよ。」
「ああ、大川さん。実は彼から時々あなたのことを教えてもらっていたの。」

知らなかった事実に、驚く。しかし、母の次の言葉は、さらなる驚きを生んだ。

「最近も連絡をもらっていたのよ。あなたに特別な人が出来たって。あと、私が最後にあなたに願ったことも、もうすぐ叶いそうだと。」
「そんな……」

そんなことまで報告されていたのかと、恥ずかしくなる一方で、どういうことだと疑問に思う。
母の願いである“一番になること”はまだまだ達成にはほど遠いはずだった。

「あの日、私は本当はこう言ったの。征太郎は“誰かの”一番になりなさいって。大きくなって、あなたが誰かを愛するようになった時。その人も一番にあなたを愛してくれるように。それが、私の唯一の願いだったわ。」

あまりの衝撃に、俺は言葉を失った。おそらく今日一番の間抜けな顔になっていたであろう俺に、母はまるで五歳児に言い聞かせるように、優しく呼びかけた。

「征太郎にも、もうすぐ私の気持ちが分かるわ。好きな人と気持ちが通じることは、とても幸せなことだもの。」

その後の人生で、おそらく幸せを掴んだのであろう母は、本当に幸せそうに微笑んだ。

その笑顔を見て、俺は心の底から“幸せ”になりたいと願ったのだ。
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