ハロー、マイファーストレディ!
決断後の行動は、実にスピーディーだった。
「ありがとうございます。それでは、きっかり10分後に部屋を出てください。小さな騒ぎを起こして記者の気を少しの間だけ逸らします。その隙にアパートの下にタクシーを一台送り込みますから、それに何とか乗り込んで下さい。申し訳ありませんが、お化粧は車の中でお願いします。」
元祖敏腕秘書はテキパキと指示を出し、「では、また後ほど」の言葉を最後に電話はプツリと切れる。
私は急いで準備をする。
メイクは車の中でやり直すにしろ、家の前で待ち構えているマスコミのために見苦しくない程度の装いは必要だ。
クローゼットを開ければ、中には買ったばかりの真新しいスーツが何着か並んでいる。征太郎と並んでもおかしくないように買い揃えた高級品だ。
その中から一着を選ぼうと手を伸ばしかけたところで、思いとどまる。
包み隠さず全てを話すというのなら、いっそのこと、ありのままの私が相応しい。
私の手は高級スーツの横を素通りして、いつもの着慣れたシャツを掴んでいた。
ふんわりとしたシルエットの白いシャツに袖を通しながら、合わせるボトムスを選ぶ。私らしくといえども、流石にデニムパンツは場にそぐわないだろうと、シンプルな黒のスキニーパンツに足を通した。
パンツをウエストまで上げてシャツをインしながら洗面台まで移動して(もはや行儀が悪いのは気にしていられない)、手早く何とか見られるくらいの化粧を施してから、髪を整える。仕事中のように一つに結んで、くるくると捻りながらお団子にしてピンで留める。その間、およそ20秒。毎日の習慣に感謝しながら、メイク道具をバッグに詰める。もちろん、特別高級なバッグではなく、いつも通勤で使っているお気に入りのトートバッグだ。