ハロー、マイファーストレディ!
「あ~、いいのいいの、かわいい甥っ子の頼みだしさ~。広志が世話になってる坊ちゃん先生の一大事だろ?休んで釣りなんて言ってる場合じゃねえって。」
「……釣りがご趣味なんですね。」
「趣味ってほどでもないけど、まあ、車に常に竿乗っけちまってるくらいには、はまってるな~。坊ちゃん先生の事務所の近くにも穴場があるからさ~。」
話の流れで、今から向かう先が征太郎の事務所であると聞いてホッとする。知らない場所に連れて行かれるより、随分と安心だ。
「やる気満々じゃないですか。」
「いやぁ、ついでだよ、ついで。」
「私を送っていく方が、ですか?」
「ははは、お嬢さん、おもしろいね~。」
どこまでも緊張感の無い会話に、思わずぷっと小さく吹き出せば、昭夫さんもあははと豪快に笑う。お嬢さん、なんてやたら恥ずかしい呼ばれ方をしても、不思議と気にならない。その顔には、しっかりと大川さんの面影がある。似ているのは顔だけではない、言葉の端々に感じられるあたたさや気遣い。まだ数分話しただけだというのに、私はすっかり車内でリラックスしていた。
「広志の奴から、お嬢さんが化粧しやすいように丁寧にゆっくり運転してやってくれって頼まれてるからねぇ。ホラ、いつもより安全運転でいくよっ。」
その言葉を聞いて、慌ててやるべき事を思いだす。滑らかに進んでいく車内で、私はメイクに取りかかった。