ハロー、マイファーストレディ!
15分後。
「ほ~、化粧なんてしなくても十分美人じゃねぇかと思ってたけど、いや~、変わるもんだね~。」
いつもより、さらに抑え気味にそれでも丁寧にメイクを仕上げると、ミラー越しの昭夫さんは大げさに感嘆の声を上げた。
「いやぁ、ほんとべっぴんさんだ。」
「……ありがとうございます。」
あまりに褒められるので、恥ずかしくなって俯く。すると、それを昭夫さんに咎められた。
「いや、お嬢さん。駄目だよ、俯いちゃ。堂々と前を向いてなきゃ。せっかく綺麗なのに勿体ないよ。」
「いや、そんなに褒められると恥ずかしいというか……」
思わず軽く眉をひそめて困った顔をした私にまたもや昭夫節が炸裂する。
「そんな顔、ダメダメ!!美人は笑ってなきゃ。作ったような笑顔は嫌いだけどさ。さっきみたいに自然に笑ってたら、みんな骨抜きだよ。」
何が骨抜きなのか全く意味不明だが、とりあえず自然な表情のまま前を向く。それを、昭夫さんがミラー越しに見て、満足げに頷いた。
「いくら顔が整っててもね、人間中身がなくちゃいい表情は作れねぇんだ。その点、今のアンタはいい顔をしてるよ。」
「ありがとうございます。」
「女がいい顔してるのは、いい恋をしてる証拠だ。あ~、若いっていいねぇ。」
茶化されて居たたまれなくなった私は、自分の顔をもう一度手元のミラーで確認する。“いい顔”といわれても自分では正直よく分からなかった。それでも、一昔前の私には決してもらえなかっただろうその言葉を、お守りとしてそっと胸にしまう。今からマスコミの前に立つというプレッシャーが、昭夫さんに褒められたことで随分と軽くなった。
「特にその目、意思が強そうな、その視線がたまんないねぇ~。俺も惚れちまいそうだよ。」
「お上手ですね。」
「本心だよ。俺に初めて会ったときの母ちゃんにそっくりだ。」
「ふふっ、そう言っていただけると光栄です。」
和やかに会話しながらも、時折周囲を見回せば、後続車や信号で隣に止まった車の窓からカメラを向けられる。おそらく、マスコミの車が追ってきているのだろう。
だけど、今日はジェットコースターのような運転で追っ手を振り切る必要は無い。私はもう逃げも隠れもしないと決めたのだ。