ハロー、マイファーストレディ!

やがて、車窓から海が見えた。
釣り好きの昭夫さんは、気分が高揚したのか軽快にアクセルを踏みこむ。

窓には、ちらほらと見覚えのある景色が映し出される。おそらく、征太郎と手を繋ぎ歩いた、あの海のすぐ近くだ。
ほんの1週間ほど前のことなのに、無性に懐かしくなり、しばらく無言で窓の外を眺めていた。
昭夫さんは、何かを察したのかピタリとおしゃべりを止めてしまった。さすがは、大川さんの伯父さんだ。

あの日、少年のように屈託無く笑った彼の顔が頭から離れなかった。
いつも周りに振りまいている嘘くさい笑顔とはまるで違うそれに、私の心は今大きく突き動かされている。

彼の未来を、守りたい。
希望に満ちた彼の瞳を、決して曇らせないようにしたい。
彼の努力と才能を思えば、それは結果としてこの国のためになるんじゃないかとすら思っている。

一昔前の私が、今の私を見たら、おそらく頭がおかしくなったと思うだろう。
それも、無理は無い。
だって、まさか思わないだろう。
詐欺師だと思っていた男が、実は清廉潔白な才能溢れる政治家で。
復讐のために契約を交わした相手に、この私が恋に落ちるなんて。

まさか、
過去をあっさりと捨てて、
未来を夢見る日が来るなんて。



「お嬢さん、もうすぐ着くよ。」

頭の中で、もう何度目か繰り返し同じ結論にたどり着いた私に、運転席から声が掛かる。
事務所周辺の道路には、多くの報道陣が詰めかけていた。

昭夫さんに御礼を言って、事務所の前で車を降りた。待っていたとばかりにカメラのフラッシュが光る。記者からは、矢継ぎ早に質問が投げかけられる。
事務所前で待ち構えていた秘書の橋元さんに守られながら何とか事務所の玄関まで、たどり着く。

私の目は、ある覚悟と共に、
未来をまっすぐ見据えていた。
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