ハロー、マイファーストレディ！

すでに、決意を固めた私は、ゆっくりと記憶を辿るかのように、過去について語り始める。

「私は、10年前に起きたある騒動で父と母を失いました。｣

より好奇に満ちた視線が、私に容赦なく向けられる。

｢私の父は、10年前、不正献金疑惑を掛けられた硴野代議士の秘書でした。｣

勘の良い何人かの記者が何かに気がついたように、大きく目を見開く。私は、それに応えるように、しっかりとした口調で告げた。

｢私は、あの時、自殺を図った村雲洋一の娘です。」

応接室の中が一瞬静寂に包まれ、その後あっという間に響めきが訪れた。

持ちかけられた復讐は、男が握っているという硴野の不正献金の証拠を公開して、父と母の無念を晴らすものだったことを話せば、マスコミは途端に私の手元のテープに注目し始めた。皆が、10年越しのスクープに浮き足立つのが分かる。
残念ながら、テープの音声ははっきりと聞き取れなかった旨を説明すると、今度は私を質問攻めにする。中には、証拠が曖昧なため、私か久住のどちらが嘘を付いているのか、見極めようとしている記者もいた。
全ての質問に、本当の事を包み隠さず答える。堂々とした私の態度がよかったのか、次第に刺すような視線が次第に和らいでいくのが分かる。

｢つまり、高柳議員は誰かの罠に嵌められたということですか？｣
｢一体誰がそんなことをしたと思われますか？｣
｢何か真依子さんに心当たりは？｣
｢それは、分かりません。心当たりも特にありません。｣

分からないことには、ちゃんと分からないと答えること。これは、事務所到着後、会見前に大川さんと確認し合ったことだ。