ハロー、マイファーストレディ!

「皆様に誤解を与え、お騒がせしたことに深く責任を感じています。そんな私が、彼に相応しくないと思われる方も当然いらっしゃるでしょう。」

私は、前を向いたまま、小さく息を吸い込む。
視界の端で、少し離れた位置で待機している大川さんの驚きと困惑の表情をとらえたが、構わずに息を吐き出すように勢いよく告げた。

「ですから、私と高柳征太郎さんの結婚については、すべてを白紙に戻したいと考えています。」

慌てて止めに入ろうとする大川さんを押しのけて、報道陣がぐっと迫ってくる。

「婚約は破棄されるということですか。」
「はい、その通りです。」

目の前で一層激しくフラッシュが光る。
まっすぐ顔を上げているが、眩しくて何も見えなかった。頭がクラクラして、その場に立ってすら居られなくなりそうだ。

「今後、交際は続けられるのですか。」
「何か、高柳氏に言いたいことは。」
「最後にメッセージを下さい。」

矢継ぎ早に投げかけられた質問に、何とか立ったまま、まとめて答える。

「今後については、私から何もお話できることはありません。ただ、私から一つだけ言えることがあるとするならば……」

最後に、もう一度前を向いて微笑んだ。
意識して笑わなければ、おそらく、涙が目からあふれてしまうだろう。

「高柳征太郎という政治家が、私情に流されて、自分の政治信条を曲げることは、未来永劫ありえません。それだけは、みなさん、どうか信じてあげて下さい。」

それだけ言うと、私は最後に深く頭を下げた。

< 212 / 270 >

この作品をシェア

pagetop