ハロー、マイファーストレディ!
征太郎はつかつかと報道陣をかき分けて、こちらに向かって歩いてくる。
その顔は不機嫌さをまるで隠すこと無く、いつもマスコミの前で振りまいている笑顔の欠片も浮かんではいない。
走ってきたのか、いつもは綺麗に整えられた髪も、きっちりと着こなしているスーツも僅かに乱れていた。
彼は、唖然とする私の前で立ち止まると、蔑んだような視線で私を見下ろした。
「君は、バカか。」
政界のプリンスの前代未聞の発言に、記者達も一様に口をあんぐり開けている。
その姿に一斉にカメラが向けられる。
おそらく全国中継されているだろうテレビカメラもだ。
「ここまでバカだとは、さすがの俺も気づかなかった。」
征太郎が、呆れたように溜息をつく。
私は焦って、小声で彼に注意した。
「ちょっと、皆の前で何言ってるのよ。カメラも回ってるし……」
「そんなこと、言われなくてもとっくに気づいてる。」
「だったら、ちょっと冷静に。」
「これが、冷静で居られるか、バカめ。」
「ちょっと、さっきから何なのよ!!人のことバカ呼ばわりして……」
たまらず反論しかけた私に、征太郎は苛ついた様子で投げやりに返す。
「バカにバカって言っただけだろう?本当のことを言ってどこが悪い。」
「私のどこが、バカなのよ!私はあなたのためを思って……」
「だから、それがバカげてると言ってる!」
荒げられた声に、ビクリと身体が跳ねる。
もしかして、内緒で会見を開いたことに、我を忘れるほど、怒っているのかもしれない。
そう思い至って、恐る恐る彼を見上げれば、意外にも彼は今にも泣き出しそうな目で私を見つめていた。