ハロー、マイファーストレディ!

「今回の一件については、概ね先ほど彼女が説明をした通りです。私も私の秘書も、収賄については全く身に覚えがありません。事実無根も甚だしい報道で、大変困惑しています。」

私の抱擁を解き、隣に並んで立つように促すと、征太郎は報道陣へと説明を始めた。

「特に、私にあたかも収賄の事実があったかのような証言および報道については、私の議員としての信用を失墜させるための、非常に悪質な行為です。名誉毀損罪での刑事告訴も視野に入れ、今後、検察および警察に捜査のため必要な証拠を提出するとともに、皆様のご理解を得るために全てを公開していきたいと考えています。」
「具体的に証拠とは?いつ頃公開される予定ですか?」
「相手との会話については、念のため秘書が全て録音しておりました。それに関しては、この後すぐにお聞かせしても構いません。」

記者の質問にも的確に答える。まるで、用意してあったかのように、その口調は滑らかだった。
そして、勢いそのままに驚くべき事実を口にする。

「さらに、今回の件に関係して、私の生母が脅迫を受けている事実が判明しました。先ほど母も警察に証言しても構わないと約束してくれましたので、近々そちらも法的措置を取らせていただくことになると思います。」
「お母様を脅迫していたのは、今回贈賄を告発した男性ですか?」
「いえ、違います。おそらくはその男性に裏で指示を出していた人物だと思われます。」
「その人物とは?分かっているんですよね?」
「今、私の口からは申し上げられません。ですが、やがて全てが明らかになる日がやってくると思います。」

先ほどまで、征太郎が会っていた相手が、彼の母だと知り、どうしようもなく胸が痛む。30年ぶりの再会が、こんな事件をきっかけに叶うとは、何ともやるせない。
それでも、当の征太郎はどこかすっきりとした顔をしていた。

「あらぬ疑いとはいえ、今回、皆様をお騒がせし、ご支援いただいている方に多大なるご心配をお掛けしたことは、偏に私の力不足によるものです。今後は、より一層研鑽を積み、皆様に掛けていただいた期待以上の成果が上げられるよう、夫婦手を取り合って歩んで参りたいと考えております。」

スラスラと謝罪と今後の抱負を語った政界のプリンスは、カメラに向かっていつもの爽やかな微笑を振りまいた。

「今後とも、皆様の温かいご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。」

深く頭を下げる彼の横で、もはや条件反射で私も頭を下げる。
再び顔を上げて、自然と見つめ合った二人をどこか先ほどよりも好意的なフラッシュの光が包んでいた。
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