ハロー、マイファーストレディ!
「そうか、二人は上手くいってるのか。」
夜中の一時、私が国際電話で話しているのは、早朝のハワイに居る友人だ。彼は、息子とその婚約者の仲が気になるようで、ここ数ヶ月は特に頻繁に私に電話を寄越してくる。
もちろん、彼は息子が立てた“計画”については一切知らない。かつてのパートナーといえども、私は今は征太郎の秘書だ。たとえ、友人であっても秘密は漏らす訳にはいかない。だが、勘のよい聡一郎は初めて息子の婚約者に会った時に、違和感を覚えたようだった。
それでも、特に追求することなく気づかないフリをしているのは、彼もまた真依子が紀枝に似ていたことに気が付いたからだ。あの夜、嬉しそうな声で、私に電話を掛けてきた友人を思い出す。
『怪しいけれど、俺は征太郎を信じるよ。』
その父親らしい一言は、まさに私が期待した通りのものだった。聡一郎なら、この茶番を見抜くだろうし、見抜いたところで気づかぬフリをするだろうと。
『あの二人は、上手くいきそうな気がするし。』
いかにも適当そうな一言に、彼の真意が凝縮されているようだった。
問題は、真実かどうかではなく、幸せになれるかどうかだ。
彼もまた、ごく普通の父親のように息子の幸せを願っているのだ。
「あの会見以来、すっかり距離が縮まったみたいだ。」
「怪我の功名か?」
「いや、元々二人とも惹かれ合ってたんだ。何も起きなくても結果は同じさ。」
「そうか。でも、結果は同じでも早いに越したことはないだろう。」
聡一郎は軽く鼻で笑い、私もつられて小さく息を漏らすように笑う。元秘書としてではなく、あくまで友人同士の気兼ねのない会話を楽しんだ。