ハロー、マイファーストレディ!
征太郎の収賄騒動は、あの記者会見とその後の証拠の公開により、呆気なく幕を下ろした。そもそも、収賄の事実など全くないのだから何も恐れることはないのだが、硴野が仕掛けた罠は実に巧妙だった。
硴野はおそらく、事前に征太郎の周囲を嗅ぎまわり、真依子が村雲の娘であることを突き止めたのだろう。わざわざ、姓を変えているくらいだ。それは真依子にとってどうしても隠しておきたい秘密なのだと踏んで、真依子の過去を餌にまんまと秘書の透をおびき寄せた。
収賄疑惑をでっち上げ、疑惑を晴らしたくとも真実を公表すれば婚約者の過去が露呈するという状況に追い込む。
逃げ場がなくなった征太郎に、さらに生みの母という切り札まで用意して、何とか自分の陣営に引きずり込もうという手筈だった。
硴野の誤算は、征太郎が思っていた以上に筋の通った政治家であったことと、真依子が自らあっさり過去を告白したことだった。
そして、さらには切り札の筈の紀枝までもが、征太郎の説得に翻意して、夫が硴野に脅されていることを警察に証言した。
公にはされていないが、ここ数日で硴野に対する捜査が進んでおり、名誉毀損罪と脅迫罪で立件される日も近いかもしれない。叩けばたんまり埃が出る男だ。ここぞとばかりに、再び特捜部も動く可能性もある。
いずれにしろ、硴野元という時代遅れの金にまみれた政治家は、これでおしまいだろう。
「それで?お前の辞表を、征太郎はどうしたんだ?」
古くからの友人は、実に興味深そうに尋ねた。