ハロー、マイファーストレディ!
「坊ちゃん曰く、結果オーライだから不問、らしい。」
「ははっ、あいつも甘いな。俺なら問答無用でクビにしてやるぞ。」
結果的に事態は好転したとはいえ、雇い主の指示に背いた罪は免れないだろうと、差し出した辞表を、征太郎は少しも見ることなく破り捨てた。
「どいつも、こいつもバカばっかりだな」と鼻で笑って、「俺がそんな心の狭い人間だと思っている方が問題だ」と顔をしかめる。
彼の言葉によれば、どうやら私は「俺が総理大臣になる頃には隠居させてやる」から、それまで「せいぜい、くたばらずに働け」ということらしい。
息子の甘さを指摘した父親に、もっと重大な点を指摘してやる。
「先に勝手に辞めちまった奴が言うなよ。」
「ははっ、確かにな。」
聡一郎は、寝起きの少し掠れた声で力なく笑ってから、今度は神妙な声で語りかけてきた。
「俺がこんなこと言う資格はないんだが、これからも、息子を頼む。」
返事をする代わりに、電話の向こう側、遙かに遠いホノルルのコンドミニアムに暮らす友人に問い掛けた。
「聡一郎、お前、今幸せか?」
電話なのに、不思議と聡一郎がピクリと動きを止めたのが分かる。
「ああ、幸せだよ。」
その言葉と同時に、穏やかに微笑む彼の顔が目の前にありありと思い浮かんだ。
「それなら、よかった。」
溜息のように返事を返す。
ようやく全ての肩の荷が下りたような気がした。