ハロー、マイファーストレディ！
結果として、渡辺千代子は生きていた。
遠く離れたハワイの地で。
二十年近く前、住み込みの家政婦として雇われていた資産家の一家がハワイに移住した時に、彼女もまた一緒に移り住んだのだという。

彼女には夫はなかったが、娘が一人居た。
その娘の年齢は、三十一歳。





名前は、聡子（さとこ）といった。


全てのピースが綺麗にはめられた時、聡一郎は驚くよりも先にまず微笑んだ。
千代子は、あの時自分の子どもを身ごもっていたのだと。
その子どもを守るために、姿を消したのだと。
その事実が、何より嬉しかったのだろう。

しかし、彼女がもたらしたのは嬉しい知らせばかりではなかった。

『母は三年前に事故に遭いました。意識が戻らないまま、ずっと病院のベッドで眠っているんです。おそらく、このまま……』

それでも、ようやく愛する存在を見つけだした彼に、一切の迷いはなかった。
すぐに妻（三度目の結婚相手だ）に離婚を切り出し、ハワイへと向かう。
一緒に出国した娘を愛人だと勘違いしたマスコミが騒ぎ立てたが、彼は気にも留めなかった。
むしろ、勘違いしてくれたのならば好都合とばかりに、政界引退を公表する。

彼は、最初から愛する女のためならば、すっかり何もかもを捨てる覚悟だったのだ。
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