ハロー、マイファーストレディ!
彼にしてみれば、この三十年間ははじめから存在しないも同然の些細なものであったに違いない。
彼にとって、千代子のいない人生など所詮死ぬまでの暇つぶし程度でしかなかったのだろう。
しかし、私にしてみれば、彼が政治家として生きたこの数十年に成し得たことは、決して些細なことなどではなかった。
高柳聡一郎という政治家は、その類い希なる交渉力により、この国の積極的外交の一翼を担ってきた存在である。
そして、彼が後継者として残した高柳征太郎は、私が今まで出会った中で、最も才能に溢れる政治家だ。
難しい政局はいとも簡単に切り抜けてみせるのに。
どうやら、高柳家の人間にとっては、愛すべき存在と幸せになるという、とても平凡でシンプルなことが、人生最大の難題であるらしい。
今日も、遠く離れたハワイの空の下、友人は愛おしい人の手を握り、愛を囁き続けているだろう。
返事が返ってくることはなくとも、彼はベッドのすぐ横で、多分満足げに微笑んでいる。
20歳も歳の離れた愛人と暮らしていると噂されているが、実際にはそうではない。
ワイキキを臨むコンドミニアムに一人で暮らしながら、毎日近くの病院へとひっそりと通う。時々は、近くに住む“娘夫婦”の家に行って、孫達と遊ぶのだそうだ(ちなみに、孫達はハーフのため髪がブロンドだ)。
愛おしい人と暮らす。
それこそが、彼にとっては最高に幸せならば、彼の唯一無二の友人としては喜ぶほかないだろう。
かつての彼の片腕として、胸にいつまでも秘密を抱えながら。