ハロー、マイファーストレディ!
親友が10年ぶりに恋をした。
始まりは、政界のプリンスが持ちかけてきた偽装結婚計画だった。
ずっと、真依子の隣で彼女が過去を捨て、未来を諦めて生きてきたのを、溜息をつきながら眺めてきた私にとって、そのどこか胡散臭い話に乗るのはある種の賭けだった。
真依子にどうしてももう一度恋をして欲しかった私は、その賭けに乗った。
あの眩しいほどに輝く彼女の笑顔をどうしても見たかったのだ。
二人は、その始まりこそ普通ではなかったが、そこから先はごくごく普通の恋人同士と変わらなかった。
二人の間に何があったのか、具体的には知らない。それでも、二人の姿を目にする度に分かった。互いに惹かれ合い、意識し合い、自分でも気づかぬうちに恋に落ちている。その変化は、まるでドラマを見ているように鮮やかだった。
ありとあらゆる技を駆使して、人を美しく見せるのが、私の仕事だ。
私の技術は長年、真依子が羽ばたく日の為に磨かれてきた言っても過言では無い。
美しい親友を自分の手で最高に輝かせる。
それは、美容師としても、親友としても、私の積年の夢になっていた。
しかし、今回の一件で人が本当に恋をしたとき、粧う必要などないことを私は知る。
恋をして、まっすぐに未来を見つめている彼女は、私が長年培ってきた技術など、足下にも及ばぬほどに美しかった。
あの日、テレビの中で微笑んでいた内海真依子は、まさに羽を広げて羽ばたく蝶だった。
私が、その姿にまた言葉を失ったのは、言うまでも無い。