ハロー、マイファーストレディ!
「おっ、瞳ちゃん、待ってたよ。」
差し入れの食料を両手に、私は今は使われていない倉庫の二階へと上がった。
読んでいたビジネス書から視線を上げた男が、へらへら笑って私に手を上げた。
「待ってたのは、私じゃなくて、ペロングでしょう?」
そんなことないよ、と微笑む男に向かって、奴の好物のペロング焼きそばを差し出す。お湯を入れて3分でできあがるそれを、男はすぐに作り始めた。名家の出身でも、味覚は極めて庶民的らしい。
残りの食材を、急遽持ち込んだ冷蔵庫に詰め込む。ほとんどが飲み物だが、ミニトマトやバナナなどそのまま食べられる野菜とフルーツもある。ペロング以外のカップラーメンや米は先週まとめ買いしたものがまだ残っていた。
冷蔵庫を覗けば、見慣れぬ日本酒の瓶を見つけた。もちろん、私が差し入れした覚えはないし、ここには私以外の人間が立ち入ることは無いはずだ。冷蔵庫を開けたまま首を捻っていると、後ろから焼きそばの湯切りをしようと立ち上がった男が聞いてもいないのに勝手に答えた。
「それ、お父さんから。昨日の夜、ここで一緒に飲んじゃった。」
とても潜伏生活を送っているようには思えない軽い声色で男は答えた。私はたちまち、振り返って聞き返した。
「お父さん、来たの?!」
「ああ、昨日夜遅くにね。ここへ来たときは、すでにだいぶ酔っ払ってたよ。」
平然と何でも無いことのように説明する男に、言葉を失う。
しかし、よく考えてみれば十分に起こりえることだった。実家からここまで徒歩五分の距離だ。いつも酔っ払うと放浪癖が出る父なら、ふらりと覗きに……ということもあるだろう。