ハロー、マイファーストレディ!
ここは、私の家が祖父の代まで営んでいた酒屋の倉庫だ。父も父の妹である叔母も家業を継がずに、10年も前に廃業したため、現在は使われていない。一階は倉庫スペースだったためがらんとしているが、二階は昔は住み込みの従業員を住まわせていたために、畳敷きで電気と水道も通っていた。

そこに、私は今、この男を匿っている。
名前を、谷崎透という。

高柳征太郎の収賄疑惑報道から一週間が経った。二人の記者会見により報道はすっかり沈静化し、マスコミの標的から外れた谷崎だったが、今度は自分の家族から追われることとなった。
名家である谷崎家はとにかく体面を気にする家で、例え濡れ衣だとしても透が疑惑の渦中にあったのが許せず、いい年をした大人を無理矢理家に連れ戻そうと躍起になっているらしい。
それゆえ、この男、犯罪者でも無ければマスコミから追われているわけでもないのに、今だ潜伏生活を送っている。

親友の婚約者の、秘書。
それだけ聞けば、なんとも遠い間柄のはずだが。
実は、私たちの関係はそれだけじゃない。

「お父さん、ホントは俺のこと殴りにきたみたいだよ。」

谷崎は、全て知ってるような顔で微笑んだ。

「娘を妊娠させたのは、お前かって。」
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